投稿

5月, 2023の投稿を表示しています

奪われたくらし  原発被害の検証と共感共苦(コンパッション)刊行1周年記念

イメージ
宇都宮大学では毎年2月頃に原発事故を考えるシンポジウムが開催される。今年は「『奪われたくらし 原発被害の検証と共感共苦(コンパッション)』刊行1周年記念 オンラインシンポジウム」が2月23日に行なわれた。「コンパッション」とはしばしば「同情」と訳されるが、パッションには「情念」と「受難」の意味があることに着目し、「共感共苦」と訳された。つまり、他者の苦難の問題を自分ごとにするのが「コンパッション」と捉えられている。 ●「何でこうなったかな」 シンポジウム冒頭、髙橋若菜さん(宇都宮大学国際学部附属多文化公共圏センター長)の報告で、「なんでこうなっちゃったかな。当たり前に暮らしたかっただけなのに」という言葉が紹介された。泥遊びが好きな子どもに何時間でもつきあうお母さんが、事故後、外遊びをやめさせなくてはならず、さらに子どもの健康異変を感じ、誰にも理解されないまま避難を決意した。知らずに子どもを被曝させてしまったことへの強い悔恨を抱え、自然の中でのびのび子どもを育てたいという「当たり前」と引き換えに、女性は平穏な家庭やくらしを失った。金銭的にも精神的にも追い詰められ、今なお苦しみ続けているという。 髙橋さんや清水奈名子さん(宇都宮大学国際学部准教授)、阪本公美子さん(宇都宮大学国際学部准教授)他4人の学者らは、新潟県の3点検証(避難委員会、健康・生活委員会、技術委員会)のうち、健康・生活委員会の「子育て世帯の避難生活に関する量的・質的調査」を請け負った。新潟県の ホームページでも公開 されている。 ●「離婚届が届きました」 調査の中で、個別インタビューの言葉は印象に残るものが多かった。 「去年の夏から『早く荷物持っていけ』『子どもは連れてくるな』とメールで言われています。義父母は孫のことが好きだから、『会うと気持ちが動揺して具合が悪くなる』『生活を乱すな』と」 「夫とは、去年の夏から電話で話すことはなくなりました。メールでやり取りをするだけです。借上げがなくなる4月に帰ってこないなら離婚だと、去年9月に離婚届が届きました」 「何でこうなったかな。守りたいものを守りたかっただけなのに。壊したくはなかったのに。やっぱり、自主避難だからこうなったのかな。避難指示があって、家族丸ごと避難だったら、こうはならなかったなと思ったりします」 「離婚の話が出る前に一度だ

日本の教育の現在地③──為政者への恭順と服従を求めた「改正」

イメージ
本田由紀(東京大学教授) 現在の日本の教育を方向付ける根拠法となっているのが、2006年に変更された教育基本法である。変更前の旧教育基本法は、敗戦後に成立した日本国憲法に基づき、新たに民主的な教育を実現してゆくための理念や原則を定めるものとして、1947年に成立した。 ▼悲願の教育基本法「改正」 自由民主党は、1955年の結党以来、日本国憲法と旧教育基本法(以下「旧法」と略記)の「改正」に意欲を示し続けてきたが、長きにわたり実現に至らなかった。 しかし2006年に、党にとっての悲願の一つを達成したのである。その直接の契機は、小渕首相の私的諮問機関であった教育改革国民会議が2000年12月22日に森首相に対して提出した「最終報告」において、教育基本法改正が提起されていたことにある。 それを受けて中央教育審議会に新たな教育基本法のあり方について諮問がなされ、2003年3月20日に改正を進める旨の答申が提出された。同年5月には自民党と公明党の議員から成る「与党教育基本法改正に関する協議会」及びその下部組織である同「検討会」による非公開の議論が開始され、2004年6月の中間報告、2005年1月の政府原案公表を経て2006年4月には最終報告が提出された。同月に閣議決定された改正案は国会に提出され、12月25日に可決・成立した。 こうした教育基本法改正の経緯には、官邸が主導するトップダウン型の政策形成へと教育行政が変容したことが表れている。 では、新しい教育基本法(以下「新法」と略記)はどのような性質を持つのか。 ▼「形成者」と「愛国心」 新旧両法において最も重要な条文は、冒頭で「教育の目的」を規定する第一条である。旧法の第一条にあった「真理と正義を愛し、個人の価値をたつとび、勤労と責任を重んじ、自主的精神に充ちた」(国民の育成)という文言は新法では削除され、「平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質を備えた」(国民の育成)という文言へと変更された。新法では、個人はあくまで「国家および社会の形成者」として位置づけられており、そのための「資質」を身につけさせることこそが、教育の目的として定義されたのである。 そして、旧法では「教育の方針」を述べていた第二条は、新法では「教育の目標」へと変更され、第一条の「資質」を具体的に表す5つの項目が掲げられる形へと

#軍拡より生活  私たちは軍拡も増税も認めない

イメージ
「平和を求め、軍拡を許さない女たちの会」による記者会見( 2月8日)   防衛予算10兆円超の異常 2月28日、2023年度予算案が衆議院で可決された。過去最高の114兆3812億円だ。昨年度より約7兆円近くも増えた最大の原因は防衛費にある。敵基地攻撃能力(反撃能力)を持つ武器の爆買いなどの防衛費6兆7880億円と、 * 防衛力強化資金3兆3806億円を合わせると、防衛関連予算は10兆円を超える。政権のお財布になりかねない予備費も、4兆円+ウクライナ関連予備費1兆円となっている。そして税収が69兆4400億円、35兆円以上国債を発行とは、あまりにもいびつな予算だ。 そもそも私たちは平和憲法下で敵基地攻撃能力を持つことも、南西諸島へのミサイル配備も、自衛隊基地の強靭化も望んでいない。もちろん、原発回帰も許してはいない。軍拡のため、国民の生活も社会保障も教育も労働もやせ細らせる岸田政権に「NO!」の声が、各地で上がり始めている。 戦争させない外交努力を 2月28日、平和を求め軍拡を許さない女たちの会のメンバーを中心に、「新しい戦前にさせない」シンポジウムが全水道会館で開かれた(共同テーブル主催)。 田中優子さん(元法政大総長)は「戦争をさせないためには何よりも外交が必要だが、防衛力強化有識者会議には『外交』という言葉が出てこない上、武器輸出まで言い始めている。岸田総理は、積極的外交と言いながら(戦争にさせないための)外交はしていない。日中共同声明で、台湾は中国の一部だと確認しており、日本はそれを尊重する。国境は変えない。武力は用いないことを約束している」と話した。 そして、日本は「台湾有事は日本の有事」と騒ぐが、中国が台湾に干渉してもそれは国内問題であり、米国や日本が軍事干渉するなど論理的に破綻していると断じ、「米国のシンクタンクでは2026年に軍事衝突の可能性を示唆したが、戦争は始まったら止まらない。日中平和条約や共同声明をフルに生かして戦争を始めないように言い続けるしか ない」と、外交努力を求めた。 戦争の前に貧困で死ぬ 竹信三恵子さん(ジャーナリスト)は、「日本は軍事に43兆円(5年間の防衛費規模)も使っている場合じゃない。賃上げすべき時。フランスでは最低賃金を引き上げるのに公費を投入する。3度のご飯が食べられないとか非正規雇用など、困っている人が見