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浜通り「ショックドクトリン」ーロボットテストフィールド(2022年5月25日)

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浜通りは今、「福島イノベーション・コースト構想」として開発が進んでいる。「東日本大震災及び原子力災害によって失われた浜通り地域等の産業を回復するため、当該地域の新たな産業基盤の構築を目指す国家プロジェクト」と銘打ち、ロボット、エネルギー、廃炉、農林水産等の分野におけるプロジェクトを進め、産業集積や人材育成、交流人口の拡大等に取り組んでいる。 浜通りを訪れた人の中には、それらの建物を見て「きれいになっている」「復興が進んでいる」と受け取る人もいるようだが、元々の住民に話を聞くと「こういった復興を望んでいたわけではない」という声も多く、冷ややかだ。 今なお、避難指示区域が残り、避難指示が解除されても帰還する住民は少ない浜通り。その閉ざされた地域で、どのような開発が進められているのか。4月22日から2日間かけて浜通りの様々な施設を回った。 最初に見学したのは、南相馬市にあるロボットテストフィールド。東西約1㌔、南北約500㍍の敷地を持つ。「陸・海・空」のフィールドロボットの一大開発実証拠点とうたわれ、インフラや災害現場など実際の使用環境を再現し、ロボット(ドローン等)の性能評価や操縦訓練ができる施設だ。「世界に類を見ない」という。屋外には「無人航空機エリア」「インフラ点検・災害対応エリア」「水中・水上ロボットエリア」等があり、屋内の研究施設に「開発基盤エリア」が作られている。 同行した福島県浜通り在住の和田央子さんは「陸・海・空、という字面を見ると、軍需産業を彷彿とさせる」と懸念を示す。表向きには、災害や介護といった産業用開発に見えても、軍事転用が可能な技術もあるだろう。実際、「福島イノベーション・コースト構想」には、経済産業省、復興庁、環境省等のあらゆる省庁が参入しているが、その中には、防衛装備庁が含まれている。 施設内を案内してくれた女性は、他県からの移住者。「企業や大学が研究したものを、ここに持ち込んでテストを行なっている」と説明した。ドローン運行管理総合機能・総合管制室は、ガラス張りになっていて、ドローンが飛ぶ様子も見られるようになっている。事業費156億円を投じて2020年3月に開所したものの、真新しい研究棟には、平日にも関わらず、ほとんど人の気配がない。残念ながら「地元住民のため」という印象は全く感じられない。 この「ロボットテストフィールド」から

問題解決を目指して―広がる被収容者支援の輪(2022年5月25日号)

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フリーライター  塚田恭子 ここ数年、入管の被収容者の人たちへの支援活動の裾野が広がり始めている。収容施設内で制圧を受けて怪我を負い、医療放置の末に体調を崩す被収容者。帰国できない事情を抱える人にも認められない、厳しい難民認定の基準。外国の人たちを安い労働力としか見ていない国の姿勢が透けて見える技能実習制度。こうした現状をおかしいと感じる人たちが、それぞれのスタンスで支援に関わっている。 星野恭子さんと杉山聖子さんは、2008年に結成された外国人支援団体「BОND(バンド)」の社会人メンバーだ。現在、在籍者が80人を超える同団体で、2人は被収容者との面会やデモ活動をしている。 「まずは現状を知ってほしいです。どうすればこの問題に関心を寄せてもらえるかは本当に課題ですね」と話す彼女たちは、どんな思いで活動に取り組んでいるのだろうか。 手足を動かして支援したい 高校卒業後、日本でいくつかの仕事を経験した後、アメリカの大学に留学した星野さん。大学院を経て、日系企業に就職した彼女は2020年11月に帰国するまで20年以上、アメリカで暮らしていた。だが、仕事でキャリアを重ねるにつれ、もっと社会でできることがあるのではと、支援活動に関心が向かったという。 「ニューヨークでホームレスの人にご飯代ほどのお金をわたすと、 God bless you と返されるんです。冬場、寒さの厳しいニューヨークで、見ず知らずの私に『神のご加護を』といってくれる。助けたつもりの自分が、その言葉に逆に助けられて。私は今までやりたいことをやってきて、ある程度、出世もしたのだから、これからは余剰をシェアすればいいのではないか。それまでもフォスターペアレントになったりしていましたが、寄付だけでなく、自分の手足を動かして、支援に関わりたいと思ったんです」。 星野さんがBОNDに参加したのは、翻訳・通訳のボランティアを募集していたからで、最初は日本の入管事情を知らなかったという。 「メンバーになると、入管問題を学ぶ機会や面会研修があります。慣れるまでは経験者とペアで行くので、『こういうふうに話を聞くんだ』と理解していきましたが、それでも最初の面会はやはり緊張しました」。 BОNDでは、中の状況を伝えるため、被収容者の話を聞く面会活動を重視している。週に1回、東京出入国在留管理局(東京入管)に足を

住まいの保障は私たちの権利実効性ある居住政策を(2022年5月25日号)

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  ▼誰もが人間らしく生きるために 人が生きる上で、住まいが必要であることに疑う余地はない。住まいは「生活の器」であり「社会生活の基地」でもある。住まいがなければ、人間らしく生きることはできない。同時にその人の存在証明でもある。住宅を確保していることで住民票を持ち、就学し、職に就き、社会サービスを受けることができる。住まいを失うと就業するのは非常に難しく、住まいの回復も困難になる。しかしながら住まいは土地に付随し、購入するにも借りるにも高価であり、個人が確保するには限界がある。 こうしたことから、世界大戦後、国際社会は住居を全ての人の衣食住の権利として掲げ、実現に努力してきた。1948年の世界人権宣言をはじめ、国際人権規約、子どもの権利条約等々である。さらに国連人間居住会議(ハビタット)の3回の会議を通して、居住の権利が議論されている。 日本においては、憲法25条の生存権と国の社会保障義務がある。これを根拠に公営住宅法や生活保護法があるのだ。私たち誰もが「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を有するのである。 最近では、国連持続可能な開発目標(SDGs)の目標11の第1項に「2030年までに、全ての人々の、適切、安全かつ安価な住宅及び基本的サービスへのアクセスを確保し、スラムを改善する」が掲げられている。ところが、日本ではこれを取り上げていない。誠に奇異である。 ▼居住の危機と住宅政策 コロナ禍が長期化する中で、従来から深刻になっていた居住貧困に苦しむ人々がさらに増えている。 コロナ禍での居住貧困の特徴は、①非正規雇用あるいはフリーランスの労働者が居住の危機にあること、②女性の問題であることだ。働く女性の半数以上が非正規雇用であり、働いていた飲食店やサービス業等がコロナ禍で休業・廃業したからである。シングルマザーの苦境は著しく、住宅は何とか確保するが、食費を切り詰め子どもの体重が低下したことも報じられている。 こうした時こそ、国の住宅セーフティネット法(住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律、2017年改正)の出番だが、受け皿となる民間賃貸住宅は家賃低減策が不十分で、家主は困窮者を受け入れるリスクを考え、普及していない。 さらに、救済どころか公営住宅の供給は削減され、全国の公営住宅の管理戸数は、2005年度末から2020年度末

経済安保法案ー現代の「国家総動員法」を通すな(2022年5月10日号)

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 4 月12日、緊急院内集会「現代の『国家総動員法』を許さない!」が開催された(経済安保法案を懸念するキャンペーン主催)。 緊急院内集会「現代の『国家総動員法』を許さない!」(4月12日) 国会で現在審議中の「経済安全保障推進法案」(以下経済安保法案)は、岸田政権の目玉政策。しかし、半導体供給の確保や先端技術の保護を目的とするとしながら、実際は企業の経済活動や技術開発、学術研究を軍事政策の下に置こうとする危険な法案だ。集会内容を中心に、その問題点を紹介する。 ■院内集会 海渡雄一弁護士は「中国・ロシアを仮想敵国とみなし、経済交流を制限するものであり、経済法ではなく軍事法。『現代の国家総動員法』ともいえる法案だ」と指摘する。 法案の柱は①特定重要物資の安定的供給の強化、②外部からの攻撃に備えた重要設備の導入・維持管理委託への事前審査、③先端重要技術の官民協力、④原子力・武器等の技術の特許非公開の4本。 経済安保法案の有識者会議のメンバーで、「安全保障の根幹は科学技術」と言い切る兼原信克氏(元内閣官房副長官補)は、最も重要なのは、③の官民技術協力だとしている。彼は、戦争協力への反省から「軍事研究はしない」姿勢を貫いてきた日本学術会議を「日本の安全保障の足かせ」と酷評する人物だ。 法案は既に衆議院を通過し、参議院に移っているが、衆議院の内閣府委員会で参考人を務めた井原聰さん(東北大学名誉教授)は「この法案は枠組みだけで、内容が示されていない。138カ所も政府が政令・省令で決めることになっており、白紙委任の提案。国会軽視だ」と指摘。重要物資・重要業種の指定は政府に一任され、事業者への統制が広範囲に及ぶ可能性があり、それが官への忖度や癒着・従属を生むことになると話した。 さらに「経済安全保障の定義も有事の定義もなく、政府の恣意的な運用を可能にするもので、研究者や企業を軍事研究、生産に囲い込む法案。秘密指定されると、研究者は研究発表も口外も禁じられる。軍事研究を拒否して研究者が官民協議会から離脱できるかも不明で、ユネスコの『良心に従って当該事業から身を引く権利』とも矛盾する」と訴え、平和憲法下で軍事研究を行なうこと自体が憲法違反だと語気を強めた。 ■参議院内閣委員会 4月19日の参議院内閣委員会では、法案について福島みずほ参議院議員が質問した。先述の集会で井

【狭山事件】半世紀を超えて冤罪とたたかう石川一雄さんに支援を(2022年5月10日号)

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部落解放同盟 中央本部 安田 聡   ▼狭山事件とは 59年間、無実を叫び続けている人がいます。 石川一雄さん、83歳。1963年5月1日、埼玉県狭山市で起きた女子高校生殺害事件、いわゆる狭山事件で、ある日突然、警察に逮捕されました。無実を訴えましたが、違法な取調べでウソの自白を強要、誘導され、犯人にでっちあげられたのです。 1審では死刑判決、2審で無実を叫びましたが東京高裁は無期懲役判決を出し、最高裁で確定。1977年、石川さんは千葉刑務所に下獄しました。32年7か月の獄中生活を経て仮出獄したあとも無実を叫び続け、裁判のやり直し(再審)を求めています。 ▼無実の新証拠—筆跡鑑定 狭山事件では、犯人が被害者の家に届けた脅迫状と石川さんの書いた上申書などの筆跡が一致するとして有罪の証拠とされました。 第3次再審では、逮捕当日に石川さんが書いた上申書や取調べを録音したテープが証拠開示されました。取調べテープには、石川さんが字を書いている場面が録音されており、警察官が字の書き方を教えていることがわかりました。石川さんが取調べで書いた文字はほぼ全てひらがなで、しかも促音や拗音が正しく書けていません。「学校」を「がこを」、「工場」を「こをじを」、「署長」を「しちよん」と書いています。石川さんがひらがなの表記のルールを知らなかったことは明らかです。小学校も十分に行けなかった石川さんは、24歳当時も読み書きができなかったのです。 一方、脅迫状には漢字が多く書かれており、「いッて」「気んじょ」のように促音も拗音も正しく書けています。森実大阪教育大学名誉教授は、当時の石川さんは部落差別によって文字を奪われた非識字者であり、脅迫状を書けなかったと鑑定しています。 さらに、福江潔也・東海大学教授(鑑定当時)は、コンピュータを使って文字を重ね合わせたときのズレ量(筆跡の相違度)を計測する新しい筆跡鑑定を行ない、脅迫状と上申書は別人の書いたものという鑑定結果を明らかにしました。 そもそも脅迫状には、石川さんの指紋はありません。石川さんが脅迫状を書いた犯人でないことは明らかです。 ▼無実の新証拠—下山第2鑑定 狭山事件では、自白通り、石川さんの家から被害者の万年筆が発見されたとして有罪の証拠とされました。下山進・吉備国際大学名誉教授は、蛍光X線分析装置を使って、この万年筆

核は平和に生きる権利を奪う──殺すな、殺されるな、殺させるな(2022年5月10日号)

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第五福竜丸展示館学芸員 市田 真理 抑止は脅し。数年前、学生グループの学習会で話した時のこと、私は核兵器で牽制し合う体制について、これは脅しあいでしかないと説明した。そのとたん、1人の学生が「そんなノイズは聞きたくない。お花畑の理想論だ」と大声で言い放ち、席を立った。 「お花畑」というのは能天気な人、考えが浅薄なことを揶揄する言葉だそうだが、面と向かって言われたのはこの時が初めて。ちゃんと彼と議論したかったとの悔いが今も残る。 ビキニ事件の衝撃 市田さん 1954年3月、アメリカが行なった水爆実験に巻き込まれ、日本の漁船・第五福竜丸が被災した。大量のフォール・アウト(放射性降下物)を浴び、乗組員23人は頭痛、吐き気、倦怠感から始まりβ線火傷による皮膚疾患、脱毛現象など急性症状に見舞われ、2週間後に母港・静岡県焼津に帰港。翌々日、第五福竜丸の被災を読売新聞が報じ大騒ぎとなった。いわゆる「ビキニ事件」の始まりだ。 乗組員たちは長い闘病生活を送ることとなり、漁獲物から放射性物質が検出され「原爆マグロ」と呼ばれた。もちろん第五福竜丸だけが操業していたわけではなく、この年の暮れまで続けられた検査により、少なくとも延べ1000隻近い船から放射能汚染魚が見つかり、廃棄させられた。 雨にも放射能が含まれていることがわかると、ビキニ事件は遠くの他人事ではなく、我が家の食卓と家族の安全に関わる「自分事」になる。原水爆反対の署名運動は全国各地で取り組まれ、翌年8月までに3200万人を超える人が意思表示をした。 しかし、核保有国は増え続け、米・ソ・英・仏・中、さらにはインド、パキスタン、北朝鮮が行なった核実験の総計は2000回を超える。実験に従事する兵士や実験場の風下地域住民を被ばくさせながら、世界は核を抱え続けている。核に核を対峙させ続けるということは、ヒューマンエラーや想定を超える災害のなかで、人類は核の被害に怯え続けるということではないか? これが「脅し」でなくて何だというのだろう。 脅かされる平和的生存権 私たちの憲法は、平和に生きる権利を高らかに謳う。「政府の行為によってふたたび戦争の惨禍が起きることのないようにする決意」を誓っている。法律に疎い私でもわかる言葉でいえば「殺すな、殺されるな、殺させるな」と決意しているのだ。 戦争は最大の人権侵害、環境破壊だ。核開発