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共に考え続ける先に (2022年1月31日号)

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哲学研究者  永井 玲衣   「哲学対話」とは あなたの言っていることがわからない。どうしてそんなことを言うのかわからない。わたしが考えていることがわからない。なぜこんなにも突然話すことが下手になってしまったのかわからない。そうだと思っていたことが、そうじゃなくなって、わからない。 哲学対話と呼ばれる場では、こんなわからなさが、はっきりとした言葉にならないままに、わたしを絶えず揺さぶってくる。哲学対話とは、人々と問いのもとに集い、世界に問いを投げかけながら、じっくり考える場のことだ。話すだけでなく、よく聴きあい、すぐには見えない「何か」に手をのばして探究を重ねる。 そこでの問いは高尚である必要はない。哲学は何もバカにしないからだ。普段は意識にのぼらず、どうでもいいとされ、取るに足らないとされているものについても、存分に考えることが許される場が、哲学なのだ。 哲学対話での問いは、集った人々によって決められることが多い。「大人とは何か」「人をゆるすとはどういうことか」「ルールは必要か」「なぜ人間関係は苦しいのか」といったいかにも「哲学的」なものもあれば「冬なのになぜアイスが食べたくなるの」「入らなきゃと思っているのに、なぜなかなかお風呂に入れないのか」「魚と触れ合うとはどういうことなのか」など、たしかに言われてみれば、と思えるような問いも提示される。 わたしは、人々の問いを聴くことが好きだ。問いはその人の観点であり、切り口であり、世界への態度だからである。世界に根ざす中で、その世界をどのようにまなざしているのかを知ることができる契機だからだ。 集まって考えること だが、こうした場を開くと実感することがある。わたしたちはよく、考えることに慣れていないとか、人々と話すことに慣れていないと言う。わたしもはじめはそう思っていた。しかし、そうではないと最近は感じている。わたしたちは、考えるということ、人々と集まって話すということに、深く傷ついている。慣れていないのではなく、傷ついているのだ。 何かを誰かの前で、誰かと共に、決断すること、選ぶこと、考えること、話すこと、そうした一つひとつに、わたしたちは深く傷ついている。自分の考えを馬鹿にされたり、きちんと聞かれなかったり、ないがしろにされたり、多かれ少なかれそのような経験を小さく、小さく積み重ねている。 もしくは

迫られる気候危機対策ーCOP26を経て(2022年1月31日号)

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国際環境NGO FoE Japan  髙橋 英恵  2 021年、様々な危機の中で第26回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP26)が開催された。今回のCOPは登録者数約4万人で過去最大となったが、途上国にとってはワクチン接種の状況や資金不足等で参加が困難であり、途上国の市民社会や交渉官の参加は限られた。 日本のメディアではあまり話題にならなかったが、国際交渉という場で「参加の不平等」があったことを今一度強調したい。そのうえで本稿では、COP26の結果から私たちがすべきことを考える。 私たちが直面する危機 私たちは今もコロナ禍にいる。パンデミックは、今まで表立って見えてこなかった経済格差、男女の格差などの危機に私たちが直面していることを明らかにした。これらの危機に追加して直面しているのが気候危機だ。2021年は、先進国途上国問わず気候変動による被害が顕在化した。熱波が北米を襲い、森林火災が世界各地で発生した。ドイツや中国での洪水も記憶に新しく、年末には巨大台風がフィリピンを直撃し、多くの人々の家屋や生活の糧、水・電気・通信・交通等のインフラに甚大な被害をもたらした。日本でも異常気象が常態化している。 2021年8月には気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書の第一作業部会のレポートが公表され、「人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない」と断言した。 「宣言」と交渉の実態の差 気候変動への危機感が募る中、2021年10月31日から11月13日にかけ、英国グラスゴーでCOP26が開催された。 開催期間中、交渉と並行して様々な気候変動への取り組みが打ち出された。開会直後には120カ国以上の首脳級が参加したワールドリーダーズ・サミットも開催され、削減目標の強化などが宣言されたが、各国の新しい削減目標を集計しても2・4度の気温上昇となる試算で、パリ協定の1・5度目標(産業革命以前と比べて世界的な平均気温の上昇を1・5度に抑制する)には程遠い状況だ。 岸田首相も本サミットに参加し、気候資金の増額を表明したことに加え、アジアの途上国で水素やアンモニア等のゼロエミッション火力を推進する1億ドル規模の支援を展開すると述べた。しかし日本は現状、水素やアンモニアを化石燃料から生産する前提だ。化石燃料依存であることには変わらず、気候変動対策に

生活困窮ー非正規労働の拡大が元凶(2022年1月31日号)

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  毎日新聞  東海林 智 10年以上変わらぬ現実 2020年、2021年の年末年始に生活困窮者を支援する「年越し支援・コロナ被害相談村」の実行委員会に参加し、2年連続で支援行動に参加した。それ以前、2008年の年末には、リーマンショックで住居や仕事を失った派遣労働者を支援する「年越し派遣村」にも実行委員として参加してきた。 10年の時を経て取り組んだ、2つの行動から見えてきたのは、非正規労働者を犠牲にして経済を回しているこの国の危うさだ。「派遣村」はそうしたシステムの酷薄さを可視化し、大きな反響を呼んだが、その現実は10年以上も経て、何も変わっていなかった。 「社会に大きな出来事が起こると、普段は隠されている非正規雇用の不安定さが浮き彫りになる」。派遣村と相談村、その両方に責任者として関わった棗一郎弁護士は言う。派遣村では、製造業務派遣で働いていた主に男性の派遣労働者が大きな被害を受けた。そして、今回のコロナ禍での相談村では、非正規労働者全体に生活困窮が広がった。被害が目立つのは、女性と若年、高齢の人。共通点はいずれも非正規労働者が多い属性であることだ。 増える女性の相談者 この年末年始の相談村(12月31日、翌1月1日)の利用者は、男性が329人、女性は89人。計418人が相談した。相談をせずにお弁当など食料支援のみを受けた人を加えれば、利用者は500人を超える。 年代別では50代が最多の94人で、60代、40代の順となっている。70代も65人いた。また、昨年12月25、26日と今年1月8、9日 に女性たちが開催した「女性による女性のための相談会」には、4日間 で382人の女性が相談に訪れた 。 派遣村の時は、女性が相談しにくい雰囲気のためもあったが、利用者はほぼ男性だった。しかし、今回の相談村は女性の利用者が2割を超えた。 女性は5割以上が非正規で働いている。非正規は、休業や売り上げ減少がストレートに収入に影響する。高齢者が多いのを疑問に思う人がいるかもしれないが、高齢者の多くは年金だけでは暮らしてゆけず、非正規のアルバイトなどをして収入を得て、何とか生活しているのが実態だ。そうした人もコロナ禍の影響をもろに受け、生活が困窮しているのだ。 女性と高齢者は奇しくも、安倍晋三元首相が「女性活躍」「高齢者の生きがい確保」など聞こえの良いスローガンを