政治を変えてジェンダー平等社会へーー祝*仏シュバリエ賞受章 スペシャル対談(2022年1月1日号)

 2021年、2人の日本人女性がフランスから国家功労勲章「シュバリエ」を受章した。三浦まりさん(政治学者・上智大学教授)と福島みずほさん(参議院議員・社民党党首)だ。心からお祝いを申し上げるとともに、昨年の衆院選の結果を踏まえ、ジェンダー平等をどう進めていくかについて等、話を聞いた。

(編集部)

なぜ女性議員を増やせないのか?

福島:シュバリエ賞を授与され、ジェンダー平等、死刑廃止、選択的夫婦別姓、慰安婦問題などの活動を評価されたことをうれしく思います。免田栄さんと死刑廃止キャンペーンで一緒にヨーロッパに行ったことを思い出します。日本ではジェンダー平等も死刑廃止も実現しておらず、うまくいかないなと思っていた矢先なので、今回の受章は、どこかで神様が見ていて、頭をなでてもらった感じ。私だけではなく、共に頑張っている皆さんと一緒に受章したと思っています。フランスは40年前に死刑を廃止し、ヨーロッパも廃止に。日本でも頑張れという思いが込められていると感じます。


参議院議員 福島 みずほ さん




三浦:私も、受章にはとても驚きました。女性の政治参画を進めてきた皆さんと共に受章したと思っています。こんなに皆さんが喜んでいるのは珍しい叙勲式だったと言われました。「女性の政治参画の遅れが日本の人権政策を後退させている。ここを変えないと」というメッセージだと受け取っています。

日本でも女性議員を増やす機運は高まっていると思っていたので、昨秋の衆院選で減るとは思わず、ショックでした。原因は投票率が低かったこと、野党の比例票が伸びなかったことに尽きます。候補者男女均等法(政治分野における男女共同参画の推進に関する法律)を、全党一致で通したのに。この結果の責任は、政党にあります。

各党から女性の新人候補が出ましたが、自民党は3人。議席の多い政党から変わらなければならないのに、努力しているようには見えません。この結果にはがっかりですが、男性たちが既得権益を手放したくない=現職優先の原則に疑問を感じます。


上智大学教授三浦 まり さん




福島:衆議院議員465人のうち女性は47人から45人に減りました。政党の努力はもちろんですが、やはりクオータ制などの法整備が必要です。しかし、自民党政権が後ろ向きのため、一番遅れているのが政治の世界。高額な供託金も問題で、女性たちが立候補できる環境整備が必要です。戦後、6県の衆議院選挙区では女性が一度も当選していません。どうしても一人区は男性になることが多くなりがち。まずは、自治体で女性議員を増やすことにエネルギーを注ごうと思っています。

三浦:人口の少ない県では現職の男性が20〜30年変わらないといわれています。しかし、市・区議選挙では女性が立候補しやすい。東京では女性は3割くらいになっています。政党に巻き込まれたくない人でも無所属で出られるし、女性たちの身近な課題に取り組める良さもあります。他方、国政は政党中心。例えば堤かなめさん(立憲民主党)は、県議を3期経験して地域と密接に活動してきて、衆院選に当選しました。10〜20年、腰をすえて活動したことで当選につながりました。

福島:地方自治体では「女性議員ゼロ議会」が2割もあり、女性1人の議会も入れると45%と女性が少ない。国会では傍聴者やメディアのチェックもありますが、地方議会では市民やメディアの目も届きにくいので、孤立とまではいかなくても、ハラスメントや、派閥・慣例の壁にぶつかることも多いかもしれません。しかし、女性が1人でも議会に入ると、緊張感が生まれ、大きく変わります。

三浦: 地域社会には、(事実上)女性参政権がないと思います。自治会が一家一票となっている話も聞きます。また地区推薦、町内会推薦を得て自治体議員になっていく傾向もあります。都市型選挙では市民派の女性が出てきやすいですが、どこから票が出ているのかわからないため、2期目で落選するケースもあります。生理の貧困など、女性の身体にかかわること(リプロダクティブ・ヘルス/ライツ)は地域の課題としては認識されにくい。特に地域の経済格差が激しい時代は、地域にどれだけお金を集めるかが中心課題となり、リプロなど女性のための政策は後回しになりがちでした。地域型の選挙では女性の案件は出にくい。だからバランスが必要です。小選挙区と比例代表があるのですから、比例定数を増やす必要があります。

福島:地域の課題も大事ですが、実は人権問題やジェンダー平等は、地域にかかわらず全ての人に及ぶ重要な課題なんですよね。

三浦:「(女性議員を増やすには)現職の重複立候補をやめたほうがいい」と提案するとバトルになるのは、どれだけお金や票を持ってこられるか、という話になるからです。重複を残すなら、男女を交互にするとか、比例の議席を半分にするとか、選挙制度を変えなければなりません。現状では、政党の顔である党首で決まる傾向があり、比例名簿に関心が持たれないのですが、「うちにはこんな多様な候補者がいる」と比例に力を入れることも大切です。政治は党首戦(?)ではなくチーム戦ですから。


身近な課題に取り組める自治体議員


福島:2021年、女性党首は私ひとりだけでした。でも、政治リーダーも変わったほうがいいですよね。みずほ塾の政治講座で女性の政治参加を促す活動を続けてきましたが、三浦さんもパリテ・アカデミーを主宰していらっしゃる。もっと女性の候補者が出てくるといいと思っています。

三浦:地方自治体レベルだと、手作り選挙で楽しいですよね。市議選挙ならば仲間にカンパを募って、それほどお金をかけずに選挙ができます。立候補の機会の平等を保障するために、公費助成があること(法定得票数のクリアが条件)も知られていませんね。仲間をつくらないと政治活動は続かないので、まず仲間を作って寄付を募ることからですね。

福島:青森では、みずほ塾で学んだ人が立候補して女性ゼロ議会を1つなくしました。国政では、立憲と社民から立候補した人がいます。

三浦:2018年に始めたパリテ・アカデミーからは、金沢市、さいたま市、新宿区などで7人が当選しました。国政はまだ当選はしていません。3年経ってノウハウも蓄積され、手ごたえを感じています。米国は日本の女性の政治参画が少ないことは人権外交上の障壁だと考えていて、パリテ・アカデミーに助成金を出してくれることになりました。

福島:今、街づくりの勉強会をしています。官民連携の巨大な開発に自治体の税金が投入されることを問題視しています。利権などと無縁な女性たちの視点は重要です。また、反貧困、シングルマザー支援等で、女性議員が活躍しています。こうした女性の政治参画で政治がより身近になるといいと思っています。

三浦:市民相談からあがってきた案件を行政につなげ具体化する役割は大きいと思います。議会に中高年男性しかいないと、弱い立場にある人はアクセスしにくいですから。

福島:東京オリンピックでは、学校連携観戦が自治体に任されました。はじめは何万人もの動員が予定されていましたが、子どもたちの観戦に疑問を持つ人たちの働きかけにより、多くの自治体で中止になりました。そこでも女性議員が活躍しました。

三浦:行政に役割分担があります。国が全体的な方針を立てても、実施は自治体任せですから、私たちの生活を良くするには、地方自治体選挙は重要です。ところが自治体選挙の投票率は低い。ひどいと4人に1人しか投票に行きません。棄権することが、どれだけ自分たちの生活を脅かすことになるかを知る必要があります。


女性が当選できるしくみを参院選で


三浦:今夏の参院選では、女性議員が25%を超えてほしいと思っています。比例は、どの政党も男女同数名簿にし、特定枠が作れるので、そこに女性を入れる発想も必要です。比例名簿を男女同数にすれば、女性に入れたい有権者が個人名を書けるので、選挙区に女性候補がいなくても「比例で女性を選ぼう」と呼びかけていきたいですね。これからが、勝負です。

福島:参議院は衆議院より女性の割合が高いのですが、DV防止法の成立などは参議院での女性議員の力によるところが大きいのです。だからもっと女性を増やしていきたい。比例で女性が当選できるよう呼びかけることは大切ですね。私自身も今回は候補者ですので、頑張ります。女性の候補者を増やしたほうが政党の多様性を示すためにもいいことだと思います。そして統一自治体選挙につなげたい。昨年の衆院選の時、新自由主義に対して、税金の取り方と使い道、再分配の仕組みを変え、ジェンダー平等を進めたいと訴えました。しかし、これが有権者に届いていないと感じたのは、新自由主義的傾向の維新が増えたからです。国民民主とタッグを組み、改憲に前向きで、危険です。

立憲主義の回復、安保関連法や共謀罪法などの違憲部分廃止を掲げましたが、それどころか政権と一部野党が改憲に突き進む状況になってしまいました。多くの力を合わせないと改憲を止められません。さらに、南西諸島の自衛隊やミサイル配備など、戦争の準備が進められ、ひりひりするような危機感があります。参院選は、平和と憲法を守れるか否かの分岐点となる重要な選挙です。

他方で、2021年、ジェンダー平等や気候変動対策への若者たちの運動には励まされました。絶望せずに、若者たちとともに政治を変えたいと思います。ジェンダー平等は、政治を変えるキーワードです。


「永田町の壁」をどう崩すか


福島:日本では人権尊重の法整備が遅れているため、人々が外国に流出する状況にまでなっています。同性婚をしても日本では配偶者ビザがもらえない。じゃあ海外に住もうとか。

三浦:留学生も来なくなります。コロナの最中、検査で陰性でもワクチン接種していても留学生が日本に戻れず、オンラインで授業ですから。じゃあ、ほかの国に留学しようと。

若者は、選択的夫婦別姓を望んでいますが、(自民党は)通称使用でごまかそうとしています。しかし、海外では、パスポートに通称を記載しても通用しません。

福島:毎回パスポートでトラブルになるのはんどいですから、ジェンダー平等が進まないと、経済的・時間的・人的損失が大きいということです。

三浦:ジェンダー平等に対する覚醒は広がりました。留まることはないでしょう。日本の女性の政治参画は停滞していますが、社会全体の意識は進みました。ジェンダー平等が、SDGsの第5項目に入ったことも大きいと思います。これを前提に、日本は具体的に意思決定における男女平等をどのようにめざしていくのか。永田町の壁をどう崩していくかです。

福島:法整備が大事です。国内人権機関の創設、差別的な法律をなくしジェンダー平等をめざす法律、賃金差別をなくす法律。世帯単位の法制度・行政システムを変えることが大事です。私が元気に動けるのは、超党派での女性議員のつながりや、三浦さんをはじめ、一緒に動いてくれる女性たちとのシスターフッドがあるからです。女性たちが様々な運動、地域とつながって、男社会を補強する女性ではなく、変えていくような女性を送りこんで、居心地のいい社会にしたいですね。

三浦:大賛成。女性議員が増えることで政策の優先順位が変わりますからね。


政策の優先順位を変えていこう!





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