迫られる気候危機対策ーCOP26を経て(2022年1月31日号)

国際環境NGO FoE Japan 髙橋 英恵





 2021年、様々な危機の中で第26回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP26)が開催された。今回のCOPは登録者数約4万人で過去最大となったが、途上国にとってはワクチン接種の状況や資金不足等で参加が困難であり、途上国の市民社会や交渉官の参加は限られた。
日本のメディアではあまり話題にならなかったが、国際交渉という場で「参加の不平等」があったことを今一度強調したい。そのうえで本稿では、COP26の結果から私たちがすべきことを考える。

私たちが直面する危機

私たちは今もコロナ禍にいる。パンデミックは、今まで表立って見えてこなかった経済格差、男女の格差などの危機に私たちが直面していることを明らかにした。これらの危機に追加して直面しているのが気候危機だ。2021年は、先進国途上国問わず気候変動による被害が顕在化した。熱波が北米を襲い、森林火災が世界各地で発生した。ドイツや中国での洪水も記憶に新しく、年末には巨大台風がフィリピンを直撃し、多くの人々の家屋や生活の糧、水・電気・通信・交通等のインフラに甚大な被害をもたらした。日本でも異常気象が常態化している。
2021年8月には気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書の第一作業部会のレポートが公表され、「人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない」と断言した。

「宣言」と交渉の実態の差

気候変動への危機感が募る中、2021年10月31日から11月13日にかけ、英国グラスゴーでCOP26が開催された。
開催期間中、交渉と並行して様々な気候変動への取り組みが打ち出された。開会直後には120カ国以上の首脳級が参加したワールドリーダーズ・サミットも開催され、削減目標の強化などが宣言されたが、各国の新しい削減目標を集計しても2・4度の気温上昇となる試算で、パリ協定の1・5度目標(産業革命以前と比べて世界的な平均気温の上昇を1・5度に抑制する)には程遠い状況だ。
岸田首相も本サミットに参加し、気候資金の増額を表明したことに加え、アジアの途上国で水素やアンモニア等のゼロエミッション火力を推進する1億ドル規模の支援を展開すると述べた。しかし日本は現状、水素やアンモニアを化石燃料から生産する前提だ。化石燃料依存であることには変わらず、気候変動対策にはならない。
さらに、既に気候変動の影響を受けている途上国の要求は、ほとんど今後の交渉に委ねられる状態でCOP26は閉幕した。COP24以降の未合意の議論がまとまり、高い評価もある一方、途上国は、資金援助の具体策について合意できなかったことに失意を示した。

国際炭素市場の問題点

COP26で最も重視された論点の1つが、パリ協定第6条下の国際市場メカニズムだ。「国際炭素市場」とも呼ばれる排出量と吸収量を取引するこの制度は、温室効果ガスの排出を許し、結果として排出量の増加を引き起こす。
このように排出量を吸収量で相殺する考え方は「カーボンニュートラル」とも呼ばれるが、気候変動による被害が顕在化する現在、追加的な温室効果ガスの排出は許されないことから、気候正義を求める市民社会は反対の声をあげてきた。気候正義とは、温室効果ガスを多く出しているのは豊かな人々である一方、深刻な被害を受けるのは貧しい人々であり、その不公平を正そうという考え方だ。
今回の交渉では、パリ協定第6条下の国際炭素市場の実施が決定され、気候正義を求める市民社会には厳しい結果となったが、国際炭素市場に頼らない気候変動対策を訴え続けていく予定だ。

脱石炭そして脱化石燃料へ

2021年11月4日、英国政府は世界規模での石炭からクリーンエネルギーへの移行に関する声明を発表した。40カ国以上が賛同したが、日本は依然として石炭火力から脱却する姿勢を見せず、賛同しなかった。
また石炭以外にも、石油や天然ガスへの直接的な公的支援を停止する新たなイニシアチブが発足したり、コスタリカとデンマーク主導の国内における化石燃料開発許可の停止を求めるイニシアチブの参加国が発表されたり、COP26はもはや脱化石燃料の流れを生み出した。
COP26最大の成果
期間中、開催地では、気候正義を求める環境団体、労働組合などの連合体である「COP26 Coalition」によって、連日様々な場所で公正な移行を求めるアクション、気候正義運動を盛り上げるためのワークショップなど多様なイベントが開催された。
女性や有色人種を搾取して成り立つ今の経済システムが気候変動の原因である化石燃料の生産や使用を可能にし、豊かな人々に利益をもたらしている。気候正義という言葉には、気候変動を引き起こしてきた自然や人間への搾取に基づく社会の仕組みを、公平性を実現する形に変えていこうという意味も含む。 
コロナ禍であっても、同じ思いを持つ人々が同じ場所に集い、語り合うことで「社会を変えたい」という気持ちを再認識し、そして「私たちには社会を変える力がある」というパワーを多くの市民にもたらしたことが最も大きな成果だったのではないだろうか。

日本に求められるものは

パリ協定の1・5度目標を達成するには、世界全体の人為的なCO排出量を2030年までに2000年比約半減、2050年頃までにゼロにする必要がある。日本は世界第5位の排出国であり、歴史的に多く排出してきた先進国としての責任がある。ゼロエミッション火力など排出削減に繋がらない技術や国際炭素市場に頼るのではなく、化石燃料依存からの早急な脱却を始めなければならない。
その第一歩は、2030年までの脱石炭だ。石炭からの脱却は、グラスゴーの街中のいたるところで掲げられたように、労働者の権利の保障なくして実現しない。そして、公正な移行の実践においては高炭素産業から低炭素産業へという単なる産業転換だけではなく、私たちの働き方、生活などに潜むジェンダーの不平等の改善なども必要だ。
温室効果ガスの排出削減にとどまらず、社会や経済の抜本的な変革が今求められている。コロナ禍で一層の閉塞感が漂う日本だが、気候正義を求める世論を高めていきたい。

(2022年1月31日号)

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