原発攻撃は想定なしー危機感ゼロの日本(2022年3月25日号)

▼一線超えたロシア軍

ロシア軍によるウクライナの原発への攻撃が心配されている。

ウクライナ国内には5カ所の原子力施設があるが、3カ所がロシア軍に制圧ないし攻撃されている(3月9日現在)。2月末にはチェルノブイリ原子力発電所をロシア軍が掌握。ザポリージャ原発は通信手段に支障が出ている。また、IAEA(国際原子力機関)によると、東部ハリコフで小型研究用原子炉がある「物理技術研究所」も攻撃を受けた。

3月9日夜、ロシア軍によりチェルノブイリ原子力発電所の電源が断たれたことも報じられた。IAEAによると、チェルノブイリ原発事故当時のスタッフは2週間も交代がない状態で核の安全性を保てるのか懸念している。48時間で予備電源が尽きるという報道もあり、残酷なことに、11回目の3月11日がその日だった(幸い深刻な事態にはなっていない)。IAEAは「安全性に重大な影響は与えない」としているが、戦時下であることを考えれば、注視する必要があるだろう。

▼原発への攻撃、議論もせず


日本では、9日の原子力規制委員長定例会見で、共同通信の記者が「日本の重要施設、原子炉建屋等に打ち込まれた場合はどういう被害が考えられるか」と質問した。

高浜原発など、無防備は原発は多い。
それに対し、更田豊志委員長は「ミサイル攻撃については、私たちは審査の中で検討も議論もしていない。従って、(武力攻撃の)負荷を仮定すらしていないし、仮定した上での議論はしていないので、お答えのしようがない」と答えている。

このことは、むしろ嘘であったほうが良い。9・11以降、アメリカの原子力施設の防衛体制への危機意識が高まり、訓練・装備を含め強化されている。ヨーロッパもその時点で見直しをしているが、日本だけが呑気にしていたため、3・11が起きたと指摘されている。




▼過去にはあった検討文書

日本では原発攻撃を想定した最新の試算や検討資料は見当たらないが、実は、古い文書ならある。外務省の委託研究報告書『原子炉施設に対する攻撃の影響に関する一考察』(1984年・財団法人日本国際問題研究所)だ。「取扱注意」というハンコと共に、冒頭に書かれた文章が興味深い。


〈我が国においてはこれまで原子力施設、特に原子力発電所が攻撃された場合の影響に関する研究論文の類が全く存在していなかった。仮にかかる論文が公になった場合の各方面(例えば、反原発運動等)への諸々の影響を考えれば、書かれなかったこと自体当然であったかもしれない〉

〈本報告書が上記に照らして有する機微な性格及び関係方面への影響等を勘案し、限定配布の部内資料(「取扱注意」なるも実質的に部外秘)とするので取扱いには厳に注意願いたい〉


その注意書きのせいか、2011年まで公開されていなかった文書だ。

内容は衝撃的だ。格納容器が初期に大きく破損したという条件のもと、炉心の溶融後、直ちに、あるいは比較的すみやかに放射性物質の大気拡散が始まるケースとして取り扱っている。


〈通常ではそういった苛酷事故は起こりにくいが、軍事的攻撃の場合には、攻撃する側にある程度の知識さえあれば、相当の確からしさで、その種の苛酷な事態を引き起こしうる点に大きな相違がある〉


とある。

試算の結果、最高値として、急性死亡が1万8000人、急性障害が4万1000人(緊急避難を全くせず、風向きや人口規模により異なるという条件付き)と記されている。気象条件によるが、急性死亡の現れる範囲は15〜25㌔を超えることはないと判断されている。また、1〜5時間で立ち退く場合は、死亡は半数ほどに減り、8200人。急性障害が3万2000人とされている。さらに、長期的影響に関しては、晩発性のガンによる死亡は2万4000人、制限距離は54マイル(約87㌔)とある。


▼戦争は「管轄外」?


日本の原子力発電所の事故を想定した避難計画は30㌔圏内までしかない。本紙でも指摘したことがあるが、通常の事故でも実効性のない避難計画の策定範囲が不十分であるだけでなく、指揮系統にも不明瞭かつ体制への不安がある。アメリカでは、NRC(アメリカ原子力規制委員会)が統括的に見ると定められているが、日本は縦割り行政の弊害が露呈する予感しかない。

今、ヨーロッパの国々で「ヨウ素剤が売り切れている」というツイートが散見される。ウクライナの原発に何かあった場合に備えて市民が購入しているのだ。

翻って日本はどうか。相変わらず5〜30㌔圏内の住民にはヨウ素剤を配布せず、条件を満たす人、自己申告した人だけが持つだけだ。日本でも原発が攻撃される可能性はあり、全国民が常備していても良いのではないか。

この点について規制庁に確認すると「原子力防災指針が、原則として配布せず、緊急時配布と定めているので30㌔圏内の全戸には配布しない。配布するのは5㌔圏内だけだ。テロ攻撃は規制庁の管轄だが、戦争は管轄外」と言い切った。

更田委員長は会見で「放射性物質があること自体が武力攻撃には脆弱性になる」と述べた。だとしたら、やはり原子力そのものを見直す時だ

 

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