裁判放棄し立ち去った裁判官ー「司法の独立」投げ捨てたのか 安保違憲訴訟・女の会 第16回口頭尋問(2022年2月25日号)

 1年3カ月ぶりに安保違憲訴訟・女の会の法廷が開かれた。

武藤裁判長は民事6部所属にもかかわらず10部の案件を担当していることが発覚し不信を抱いていたが、1月28日、日本の裁判史上、前代未聞の暴挙に出た。詳報したい。

(中村 ひろ子)




異常な法廷


弁論更新は、裁判長や陪席裁判官が交代した時、原告側が大意を説明する権利を与えられているもので、今回は3人の代理人弁護士が分担して次のように陳述した。

杉浦ひとみ弁護士は、女の会が主張してきた「安保法制違憲の根拠」を簡潔に述べた後、原告福島みずほを含む国会議員が「廃案」を上程しているのは、戦争の危機が迫っているからだと迫った。

秦雅子弁護士は、安保法制成立後5年間に軍備増強が進められ、南西諸島等に軍事的緊張が起きているが、これが予想されていたのか議論されたであろう安保法制懇の議事録公開の必要があると主張した。

角田由紀子弁護士は、司法の役割と責任を理路整然と展開し、横畠元内閣法制局長官の尋問の必要性を強調した。

発言が終わり、拍手が起きたが、裁判長はすかさず制止。

「弁論更新の陳述をいただきました。従前通りと言う事で弁論更新を行なったということでいいですね」。

秦弁護士は「従前通りではないですが、内容は主張した通りです」と反論した。続いて、今回新たに提出した書面と証拠について確認後、山本弁護士が手を上げて立ち上がり「今後の立証について…」と話し始めると、裁判長は、制止するように手を振りながら、両陪席を見て立ち上がり、何か言いながら後ろを向き、立ち去ってしまったのだ。

何が起きたのかわからず、法廷内は静まり返った。「何て言ったの」「聞こえなかった」「閉廷してないわよね」…。

代理人が、残された書記官に「私たちは閉廷を聞いていない」「何を言ったのか聞き取れていない」「戻って来て話すべきだ」と言うと、二度聞きには言ったが、「裁判長はもう閉廷したので来ない」と繰り返すのみ。そして「判決期日は…」と言おうとするので、「私たちは裁判長の口から聞きたい」と制止した。

裁判長が遁走してから1時間半、代理人の判断で、代表が抗議に行くことで退出することになった。この間、法廷から出て行くようにとの要請はなかった。むしろ、法廷外に向かって「裁判長は戻って来い!」と言う傍聴人に対し、廷吏が席に戻るようにと言っていた。

驚いたことに、私たちが法廷の外に出ると、廊下には正面玄関に行けないよう衝立が立てられ、警備員約10人に加え、事務職員が50人ほど立ってバリケードを作っている。私たちが非常口に誘導されて外に出ると、警察車両まで配備されていた。

原告と代理人数人が抗議に行くのも妨害された。書記官に電話して通すように言い、ようやく事務室まで行ったが、そこにも事務職員約30人が立っていた。

代理人が、「40年この仕事をしているが初めてだ」という異常な法廷だった。


記者会見


そこで私たちは、「異議申立て」をまとめて1月31日裁判所に提出し、2月4日に記者会見を行なった。私たちの異議申し立ての内容は、以下の通りである。

この第16回の法廷の持ち方については、1月24日に文書で次のように要請していた。

①前回以降裁判官が交代しているので審理経過を口頭で陳述したい、②準備書面25・26について口頭陳述したい。さらに26については被告国の認否・反論を求める、③前回以降提出した書証・人証について陳述したい。さらにそれ以前に申請している文書開示と、横畠元長官の尋問を強く要望する、④これらの必要性を陳述する機会を求めるとともに、準備書面に対する裁判所の考えを示して欲しい。

少なくとも、③④の要請に全く応えていないので「審理を尽くした」とはいえない状態である。

裁判長が、提出書類の確認をした際、新たに提出していた証拠申出書に触れず、提出確認をしなかった。そこで、代理人が証拠調べについて発言しようとしたが、裁判長は退廷してしまった。


こうした経過から、

①証拠申出書や証拠調べに関する意見を訴訟手続きの俎上に載せなかったのは、代理人の弁論権の侵害である。

②安保法制懇と与党協議会の議事録開示と、横畠元長官の尋問申請についての議論を避けたことには根拠がない。

③国家権力による「国家の安全保障」の論理で、原告らが努力し追及してきた安全保障のジェンダー主流化を踏みにじっただけでなく、民衆の安全保障を蔑ろにする戦争計画が安保法制そのものに組み込まれていたのではないか、それを追及する女の会の法廷を回避する目的での審議拒否、閉廷だったのではないか。

④原告や代理人の意見を無視するのは、差別的侮辱である。

と指摘をした。

その上で、①弁論は終結なのか、集結とすれば審理が尽くされたとする根拠は何か、②次回期日を何時と設定するのか、③この日の法廷警備は誰の権限に基づき、いつ、いかなる必要のもとに判断して行使したのか。その権限行使は、法廷秩序の維持に基づくものか、それとも庁舎管理の一環であるのか、法律上の根拠も含めて明らかにされたい、と申し立てたのだ。

国の違法行為を裁くべき裁判所が三権分立も公平性もかなぐり捨て、「政治の要請」に屈服した。霞が関では文書改ざんが横行している。「裁判所よ、お前もか」。どこまで腐っていくのか。今回の暴挙に、2015年9月19日、安保法制強行採決を思い出した人も多かった。

会見には大手メディアも来ていたが、未だに今回の事件が報じられていない。この現実が恐ろしい。


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