甲状腺がんの子どもたちが提訴 「事故との因果関係を明らかにし、補償を」(2022年2月25日号)



 1月27日、甲状腺がんに罹患した6人の若者が東京電力を提訴した。事故当時6〜16歳で福島県内に住んでいた。甲状腺がんになったのは、福島原発事故による放射線被ばくの影響だとして、因果関係を問う裁判になる。

現在、福島県の甲状腺検査で「悪性ないし悪性疑い」と判定された人は266人、うち手術を受けた222人中221人が甲状腺がんと診断確定したと報告されている。

この他にも、県が把握・公表していない小児甲状腺がん患者が存在していることもわかっている。国立がん研究センターの統計では、小児甲状腺がんは年間100万人あたり1〜2人。福島県内の検査対象の子どもたちは38万5000人である。

国も福島県も、頑なにスクリーニング効果や過剰診断を挙げ、原発事故と甲状腺がんの因果関係を否定。しかし、手術の執刀医である福島県立医大の鈴木眞一氏は「これまで行なった手術は適切で過剰診断ではない」と別の裁判で証言している。


提訴後の記者会見で、原告の1人の女性は、声を詰まらせながら「甲状腺がんと診断されたあと、原発事故との因果関係はないと言われました。その時の気持ちと、母の涙は今でも忘れられません」と語った。

また、高校生の時に手術を受けた女性は、その後再発し、遠隔転移。完治は難しいという。「将来が不安で、先のことが考えられません。私たち以外にも甲状腺がんの子どもたちはいる。少しでも他の皆さんの力になればと思います」と語った。

中学2年生で原発事故を経験した25歳の男性は、4回の手術を経験。昨年末には放射線治療を開始し、経過観察中だ。「原発事故と甲状腺がんの因果関係を明確にし、安心して暮らせる補償を充実させてほしい」と訴えた。

「ずっと、誰にも言えなかった」という患者もいる。自分ががんに罹患したことが、周囲に「風評被害を生む存在」と思われる懸念からだ。被害を受けているのに、つらさを語れない空気を作り出したのは、いったい誰なのか。


提訴の同日、村山富市、小泉純一郎、菅直人、細川護煕、鳩山由紀夫氏の首相経験者5人が、東京電力福島第一原発事故で「多くの子どもたちが甲状腺がんに苦しんでいる」とする書簡を欧州連合(EU)の執行機関・欧州委員会に送った。

しかし、それに対し、政府内、自民党内から抗議の声が相次いだ。岸田文雄首相は5人の書簡に関し「福島県の子どもたちに放射線による健康被害が生じているという誤った情報を広め、いわれのない差別や偏見を助長することが懸念されるものであり、適切ではない」と発言。「風評払拭」として、山口壮環境相は、問題点を指摘した書簡を5人に出したと説明した。

福島県知事まで、「県の専門家委員会で甲状腺がんと放射線被ばくの関連は認められないとする見解が示されており」「福島の復興のためには科学的知見に基づく客観的な情報を発信していただく」という内容の申し入れを行なったという。


そもそも、原発事故直後、国も県も、甲状腺がんを防ぐために安定ヨウ素剤を集め、福島県内市町村への配布計画まで立てていたが、結局、子どもたちに配布しなかった。その事実は、原子力災害時の緊急時対応センター(ERC)の記録に残っているが、公表されていない。

また、必要な情報も、周知されなかった。例えば、「取扱注意」と書かれた文書には、放射性セシウムが90000ベクレル/㎏含まれたほうれん草(大玉村/3月19日)や、放射性ヨウ素が66万6000ベクレル/㎏含まれた雑草(=家庭菜園の野菜と同環境/福島市/3月15日)の数値が記載されている。現地対策本部は把握していたが、住民には伝えられず、「食べてしまった」「飲んでしまった」という人は多い。

被ばくしなければ、原告の6人だけではなく、発表されている300人近い甲状腺がんに罹患した福島県の子どもたちは、守られたはずだ。しかし、国にも県にも、一切反省は見られない。5人の元首相の書簡に対する過剰とも思える反応。過去の公害事件と照らせば、原発事故とその放射能被害への責任を免れようとしていることは明らかだ。

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