「力には力」では戦争は止められない (2022年3月10日号)

「力には力」では戦争は止められない 

ウクライナ侵攻と台湾情勢にみる日本の未来

防衛ジャーナリスト 半田 滋


ロシアのウクライナ侵攻と中国



ロシアがウクライナに軍事侵攻した。昨年11月末からウクライナ東方の国境沿いに部隊を展開していたロシア軍は、南北と東の三方から同時に攻め入った。

プーチン大統領の主張は、冷戦後の旧東欧諸国や旧ソ連の一部だったバルト三国まで広がった北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大を止め、ウクライナがNATOに加盟しない法的保証を得ること。主権国家の意志をねじ曲げる要求に対し、欧米もウクライナも当然の拒絶をした結果、プーチン大統領は力づくの行動に出た。

この様子をじっと息をこらして見つめている国がある。中国だ。ウクライナ侵攻は国連常任理事国としてあってはならない暴挙であり、明らかに国連憲章に違反する。

そんなロシアの振る舞いに対し、国際社会がどのように対応するのか。ウクライナ侵攻はどんな結末を迎えるのか、中国にとってはこれほど参考になる事例はない。

「中華民族の偉大な復興」を掲げ、「台湾統一」を打ち出している習近平国家主席は今秋の中国共産党大会で異例の3期目に突入する。さらなる長期政権を確実にするには、台湾統一に勝る成果は考えにくい。

力による現状変更の試みに国際社会はどう反応するのか、中でも細心の注意を払って観察しているのが、米国の出方だろう。バイデン米大統領はウクライナへの派兵は明確に否定したが、台湾に対しての見解は違う。昨年10月、米国のテレビ番組に出演し、「われわれには台湾を防衛する責務がある」と述べ、中国による軍事介入を許さない姿勢を示した。「台湾有事の発生は6年以内」。米インド太平洋司令官は昨年3月、米議会でそう断言した。


台湾有事と存立危機事態


台湾有事は、近いのだろうか。

そのとき日本はどうなるのか。岸田文雄首相は、米軍との共同行動につながる「敵基地攻撃能力の保有」の検討を進め、年内には結論を得るとしている。

岸田首相の政策決定に影響を与えているのは、岸田政権誕生にかかわった安倍晋三、麻生太郎という2人の元首相であることは周知の事実だろう。

安倍氏は2月27日、ロシアのウクライナ侵攻に関連してテレビ番組に出演し、米国の核兵器を自国に配備して共同運用する「核共有」政策を検討すべきだとの考えを示し、事実上、「非核三原則」の見直しを提言した。

敵基地攻撃については「言葉にこだわらない方がいい。軍事中枢を狙っていく。軍事をつかさどるインフラを破壊していく。基地である必要は全然ない」と述べ、攻撃対象をより広げるべきだと主張して、敵基地攻撃能力の保有を強く推奨した。

その安倍氏は台湾有事についても発言している。

昨年12月の台湾に関するシンポジウムで「尖閣諸島や与那国島は、台湾から離れていない。(略)台湾有事は日本有事であり、日米同盟の有事でもある」と述べた。日本が台湾に近いことを理由に「台湾有事は日本有事」と決めつけている。しかし、現代の戦争では、隣接する国で戦争が起きても巻き込まれなかった例は珍しくない。

安倍氏の言葉を正確に言い換えるならば、台湾に近い沖縄には米軍基地が集中しており、米国が台湾有事に関わればその基地が攻撃されて日本有事に発展する、あるいは安倍政権で成立した安全保障関連法によって「密接な関係にある他国」に該当する米国が中国と戦争することで、同法に基づく対米支援が行なわれ、中国からの攻撃を呼び込んで日本有事に発展する、と言わなければならない。

また麻生氏は昨年7月、副総理兼財務相として講演し、「台湾で大きな問題が起きると、間違いなく『存立危機事態』に関係してくると言っても全くおかしくない。日米で一緒に台湾を防衛しなければならない」と述べた。

「存立危機事態」は集団的自衛権を行使できる安全保障関連法の要件のひとつであり、自衛隊法で「密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し日本の存立が脅かされ、国民の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」と規定されている。

台湾は「密接な関係にある他国」だろうか。

1972年の日中国交正常化にあたり、日中両政府は共同声明に調印した。共同声明を通じて、日本政府は「台湾を中国領土の一部」と主張する中国の立場を認めた。外務省ホームページには「台湾との関係は1972年の日中共同声明にあるとおりであり、非政府間の実務関係として維持されている」とあり、半世紀後の今も日本政府の見解は変わっていない。

麻生氏が演説の中で台湾を独立国のようにみなし、「密接な関係にある他国」との前提に立って存立危機事態を主張するのは二重に間違っている。安全保障関連法案の審議当時も麻生氏は副総理兼財務相として法案を最もよく知るべき立場にあった。そのような人物でさえ、十分に理解していないのだ。あるいは法律を誤読したフリをしているのかもしれない。

ただ、台湾有事に米国が参戦することになれば、法的根拠が生まれる。安全保障関連法に基づいて、日本の平和と安全に影響のある重要影響事態が認定され、参戦した米軍への後方支援が可能になる。


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