HPVワクチン ーなぜ今「積極勧奨」再開なのか?(2022年2月25日号)

水口 真寿美(弁護士・HPVワクチン薬害訴訟全国弁護団共同代表)




不透明な勧奨再開への動き

定期接種ワクチンでありながら、深刻な副反応のために、2013年6月から接種の積極的勧奨が中止されていたHPVワクチン。しかし、厚生労働省は昨年11月、今年4月から、接種の積極的勧奨を再開する旨の通知を発出したのです。

2021年8月31日、自民党の議連が再開を求める要望書を厚労省に提出しました。翌9月1日にはワクチンメーカーが「厚生労働省と密接に協力し本年10月の積極的な接種勧奨の再開に向けてあらゆる準備を進めてきました」と述べ、厚労省に積極的勧奨再開を迫るステートメントを公表。これで勧奨再開の動きが一気に加速しました。それまで厚労省の審議会で10月から再開という議論がされたことはなく、この話は初耳でした。

厚労大臣は当初、「約束したわけではない」などとコメントしていましたが、結局のところ、10月1日に審議会が開催されて再開の方向性が決まり、11月12日の審議会で再開が決定されたのです。

厚労省は、HPVワクチンの安全性について、「特段の懸念はない」としています。しかし、積極的勧奨中止の理由となったHPVワクチンの副反応は、頭痛、全身の疼痛、知覚障害、不随意運動、歩行障害、激しい倦怠感、睡眠障害、記憶障害…等々、多様な症状が1人の患者に重層的に現れる特徴を持った重篤なものです。その深刻さは、被害救済制度における重篤な被害の認定頻度が、四種混合や麻しん・風疹のワクチンなどと比較して20倍以上であることにも示されています。

しかも、治療法は確立していません。厚労省により全国に84の協力医療機関が指定されていますが、通院しても適切な治療を受けられず、詐病扱いされる例も後を立ちません。通学や就労の支援も不十分です。それどころか、被害を訴えると子宮頸がんを増やすかのように批判されます。副反応被害者の苦しみは、2013年当時から何も変わっていないのです。


厚生科学審議会でも危惧


積極的勧奨を再開すれば、増えるであろう副反応被害者に対して、果たして適切な対応ができるのかという危惧は、実は再開を決めた審議会の委員の発言にも示されています。

例えば、2021年11月12日に開催された厚生科学審議会では、データをしっかり収集しながら、ゆっくり広げていくのがよいと指摘されています。

また、収集した副反応疑い報告の評価を他の定期接種ワクチンよりも高い頻度で行なうこと、協力医療機関の医師に対する研修の質を高めること、協力医療機関の診療実態の調査をタイムリーに行なうこと、地域の医療機関への周知徹底、相談支援体制についての地域の衛生部門と教育部門、学校と文部科学省の連携を強化すること等が必要と指摘されていました。

さらに、同年11月15日開催の厚生科学審議会でも、追跡調査の必要性や、副反応の治療法の開発と確立について指摘されています。

そもそも、副反応患者を診察する協力医療機関を指定したり、上記のような支援体制が求められたりしているワクチンはHPVワクチンの他にはありません。このことは、そもそも国が積極的に勧奨するのにふさわしいワクチンなのかという根本的な疑問を投げかけています。


政党と自治体に要請


HPVワクチンについては、現在、全国4地裁で集団訴訟が争われています。被害者の願いは、元の健康な生活を取り戻すことです。

そこで、原告団・弁護団では各政党に対し、HPVワクチンの副反応被害者に対する本当の寄り添った支援、つまり、①治療法確立のための国の研究班の設置、②診療体制の整備、③救済制度のあり方の見直し、④被害者の就労支援等を実現するために、副反応被害者からのヒアリングを行なうことを求める要請書を送付しました。

また、全市区町村(1741自治体)には「寄り添う支援に近づくための8項目」の要請書を送付し、少なくとも、相談体制等の環境が整備される前に個別通知によって接種を勧奨しないよう求める等、働きかけています。

詳細は、弁護団のウェブサイトをご覧ください。皆さんのご支援をお願い致します。

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