入管問題を考える 医療放置ー健康だった被収容者が寝たきりに(2022年3月25日号)

 量権を自在に行使できる入管法に守られ、気がつけばブラックボックス化していた——そんな出入国在留管理庁(以下入管)の問題をメディアが一斉に報じたのは、2019年6月、長期収容への反発からハンストをしていたナイジェリア出身の男性が、大村入国管理センター(大村入管)で餓死したときだった。

「一番恐れていた現実がとうとう起きてしまったと思いました」。

2005年から大村入管で面会活動を続けている長崎インターナショナル教会の柚之原寛史牧師は、事件についてそう振り返る。だが、今も大村入管には、この事件と同じ時期、大腿骨頭壊死症と診断されながら放置され、寝たきりになっている被収容者がいる。施設内で何が起きているのか。柚之原さんに聞いた。


(フリーライター)塚田 恭子



自力では排泄も不可能に




大腿骨頭壊死症で寝たきりになっているのは、ネパール人のAさんだ。2019年1月、東京入管から大村入管に移送された時点では、普通に歩いていたAさんが寝たきりになった経緯について、柚之原さんはこう話す。

「2019年の春、施設内でサッカーをしていたAさんは、他の収容者とぶつかって左股関節を痛めました。彼はすぐに診察を希望したものの、施設内で受診してもらえたのは1週間後。医師はレントゲンを撮ることもなく、“異常なし”と診断しましたが、足の痛みは引かず、Aさんは7月末に外の病院の整形外科を受診します。さらに8月初旬、長崎市内の病院でMRIを撮って、左大腿骨頭壊死症と診断されました」。

だが、診断後も、大村入管は痛み止めを処方するだけで治療することはなく、Aさんの歩行困難はますますひどくなっていった。

「最初は松葉杖でしたが、痛みによる歩行困難から車椅子になったAさんは、排尿障害を起こして尿道バルーンを挿入しました。排便もコントロールできず、今はオムツを併用しています。2021年12月には背中にも痛みが生じ、ひと月ほど、外の病院に入院しました」。

ところが退院後の1月半ば、柚之原さんが面会に行くと、Aさんはストレッチャーに寝たままの状態で面会室に現れたという。

「両足に痛みがあり、右足首は少し動かせるものの、左足は全く動かせず、倦怠感もあって、Aさんは『しんどい』と繰り返していました。声もかすれ、車椅子から寝たきり状態になった彼を、病院はよく退院させたと、正直、驚きました」。


長期収容がもたらす拘禁反応


支援者に同行して、私も足を運んでいる東京入管でも、松葉杖、あるいは車椅子で面会室に現れる被収容者はいる。収容が長期化する中、いつ出られるかわからない不安から、鬱症状、不眠、食欲不振などを訴える人は少なくない。こうした「拘禁反応」には、具体的な病名はつかないものの、放置されることで彼らの体調は悪化してゆく。

入管は医療施設ではなく、職員に医療の専門知識はない。にも関わらず、上からの指示に疑問を持たずに従う職員は、被収容者が不調を訴えても、まずは詐病を疑う。放置された先にあるのが、冒頭で伝えたナイジェリア男性の餓死であり、昨年3月に名古屋入管で起きたスリランカ女性ウィシュマ・サンダマリさんの死といえるだろう。


ナイジェリア男性が餓死した夜、柚之原さんは声明文を書き上げ、翌日、大村入管に提出した。

「それまでは年に一度、NGO、弁護士と私たち支援者が入管側と話し合いをする際も、私は最後に『死者だけは出さないでほしい、命を守ってほしい』とだけ伝えてきました。でも、彼の死を受けて行動を起こさなければという思いを持ったのです。法務大臣と総理大臣に宛てた声明文を入管の総務課に提出した後、私はそれを読み上げました。そのとき、当時の総務課長がニヤニヤ笑っていたことは、今も忘れられません」。


「安心安全」のため外国人を管理


柚之原さんの話は、被収容者の置かれた厳しい状況を伝えている。だが、かつては支援者と大村入管の職員の関係が良好だった時期もあったと柚之原さんはいう。

「2009年に全国の主要施設で初めて礼拝が認められるなど、大村入管は他にない開かれた入管づくりを試みていました。クリスマスに温かいフライドチキンを食べたいという被収容者のために職員に交渉して、差し入れが認められたように、2011〜2013年頃までは互いに信頼感がありました。でも、オリンピックの開催決定後、安心安全を標榜して外国人を管理するという方針が、全国の入管に発令されて以降、仮放免が認められなくなり、長期収容で苦しむ人が増えていったのです」。

適切な医療を受けられず、大きな障害を負ったAさんは、歩ける足に戻してもらうために手術を望んでいる。今の状況は人権侵害だとして、彼の弁護団は長崎地裁に人権救済を申し立てている。

メディアがこの問題を報道し、国会議員が適切な医療を施すべきだと申し入れを行なうと、大村入管は1月下旬にリハビリという名目でAさんを介護施設に移した。だが、このため、柚之原さんら支援者は今、彼に面会できなくなっている。

「両大腿骨の手術には1100万円以上かかると見込まれます。私たちは国がすべて負担し、早急に手術するよう求めていますが、国家賠償訴訟の結審まで1年以上かかるでしょう。支援者でどうにかできないかと、仮放免の手続き、資金集め、受け入れ病院のリサーチなどをしていますが、地元の支援者ができる限度をはるかに超えています。Aさんの願いが叶うよう、私は祈り続けています」。


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