戦争を止めるのは平和外交──ロシアによるウクライナ侵攻と東アジア(2022年3月25日号)



東京大学名誉教授 和田 春樹 

今こそ憲法9条の実践を

平和憲法、憲法9条を守れということが、日本の反戦平和勢力が長い間掲げてきた旗印であった。幸いにして憲法改悪は75年間阻止されてきた。

だが、いま憲法改悪の危機がかつてないほど迫っている。そうだとしても、いやそうであればこそ、憲法9条を守ろうとする者は憲法9条を実践しなければならない。条文の効用を証明してこそ、守ることができるのである。

憲法9条は、国際紛争を解決する手段として武力の行使、武力による威嚇を放棄すると定めている。肯定的な表現で言えば、「国際紛争を解決するには武力によらない平和外交を活用せよ」と求めているのである。そのような憲法9条の要請に、日本政府、国民は従い、行動しているのだろうか。


制裁一辺倒では効果なし


日本は隣国、朝鮮民主主義人民共和国(以下北朝鮮)を敵視しており、一切の関係を遮断して久しい。この国は日本が国交を持たない世界で唯一の国だ。過去の植民地支配が終わってから77年経つのに、いかなる清算もしていないのである。

45年ほど前、この国の工作員が日本に侵入し、17人の市民を拉致連行していった。2002年に至り、北朝鮮政府は13人を拉致したと認め、うち8人は死亡したと述べ、謝罪した。これに対して日本政府は、「8人死亡を認めない、全員を帰国させよ」と要求して、交渉を何度か決裂させた。さらに北朝鮮が2006年に核実験を行なうと、数次にわたり制裁を加え、貿易を完全に遮断し、船舶の往来も禁止した。武力を行使していないだけで、完全な敵対、対決状態に突入している。

北朝鮮は、日朝国交交渉の途絶後、核実験を行ない、ミサイル発射を繰り返してきた。2017年3月には、「米朝戦争が始まれば日本にある米軍基地をミサイルで攻撃する」と声明。核弾頭つきのミサイルが用いられる可能性もある。日本がこれから敵地攻撃用のミサイルを獲得しても、北朝鮮のミサイル攻撃は阻止できない。

だから、日朝間の緊張を緩和し、関係を正常化し、表面的にでも平和的な気分をつくりだし、懸案の解決のための交渉を開始することが必要である。要するに、ミサイル攻撃と核兵器の使用をやめさせるには、平和外交をもって努力するしかないのである。


日本は中国と共に仲裁を


この度のウクライナへのロシアの侵略的軍事行動に対しても、すみやかに停止させ、平和をつくりだすのに効果的なのは平和外交である。攻められているウクライナ人は、武器を持って応戦するしかないし、欧米は制裁を高めて対抗するのは必然だ。

しかし、世界がロシア軍を止めるには、ロシア軍を「人道の敵、文明の敵、世界の敵だ」と決めつけて追い出すのではなく、ロシアに究極の経済制裁を加えて悶絶させるのではなく、「隣国はみなロシアと平和的に共生することを望んでいる」と説得することだ。政府を批判して立ち上がっているロシア人を励まして、プーチンに戦争をやめさせることだ。

アメリカはイラク戦争でイラク政府をたたきこわした。昨年8月アフガニスタンから撤退したバイデン政権は、今度は「民主主義と専制主義の対決」を宣言して中国に圧力を加え続けている。こうした敵をつくるやり方では、平和は築けない。今回のロシアによるウクライナ侵攻も同じだ。

ロシアとウクライナの間に、不和の種は確かに存在する。しかし、350年以上一つの国であった両国は、平和的な協力関係で結ばれなければ正常に生きられない。この度の戦争で、ロシアは明らかに罪を犯した。しかし、NATOの東方拡大に危機感を持ち続けてきたロシアにも何かを与えなければ平和は来ない。ロシアの隣国〞日本、中国、インド、トルコ、フィンランドが結束して平和外交でロシアを説得し、軍事侵攻を止めることが必要だし、可能である。

平和外交によって戦争を止める実績をあげることこそ、東アジアの平和を守る道であり、改憲を防ぐ道である。

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