入管問題を考える 点滴で栄養ー入院も仮放免も認められず(2022年4月10日号)

 収容がこれ以上、長引いて大丈夫なのか。そう懸念される被収容者は、前回紹介したネパール人のAさんだけではない。

今、東京出入国在留管理局(東京入管)には、食べても嘔吐してしまうため、80日以上、点滴でギリギリの栄養を摂っているにも関わらず、入院も仮放免も認められず、車椅子で過ごすスリランカ人男性がいる。

こうした状況を危惧して入管問題に取り組むのが、石川大我参議院議員だ。2001年、LGBT支援のつながりから入管問題に関わったという石川さんに、議員会館で話を聞いた。


フリーライター 塚田恭子

80回を超えた点滴


「これを見てください」。

石川さんはまず、東京入管に収容されているスリランカ人男性ジャヤンタさんが記録した体重推移のグラフをテーブルの上に置いた。

ジャヤンタさんは2021年2月、7月と、収容施設内で2度、新型コロナに感染。10月には、彼を車椅子から引き離そうとする職員から身を守ろうとして転倒し、1時間半、足を車椅子に挟まれたうえ、職員から暴行を受け、顔や足などに怪我を負った。

この事件を知った石川さんら国会議員が入管に申し入れを行ない、ジャヤンタさんは11月に仮放免が認められたものの、わずか2週間で再収容されてしまう。

身体のために食べなければ。本人もそう思いつつ、食べると吐いてしまうため、点滴でエネルギーを補給する状態が続いている。

「2月22日の面会後、受け取ったのがこの体重のグラフです。点滴はこの日で79回目、すでに80回を超えています。血管が固くなり、針を刺す場所もあちこち変えているのに、『この状況でも収容を続けるのですか?』と尋ねても、東京入管の石岡局長は『大丈夫です』といいます。逆に局長は『自分が食べられるといったバナナやゼリーを出しても食べないし、血液検査も受けてくれない。石川先生からも食事を摂るよう、彼にいってやってください』というのです」。


食べられない青いバナナ


医師でもある阿部知子議員らとともに1月にジャヤンタさんに面会した際、仮放免中の食事を聞き取った石川さんは、フルーツなど身体に負担の少ないものを出してはどうかと申し入れをした。これを受けて、入管はバナナを出したのだろう。

だが後日、自由時間に電話をしてきたジャヤンタさんに確認すると、出されたのは青くて固いバナナで、とても食べられなかったと聞かされたという。

「僕もまさか、青いバナナを出すとは想像しなかったのですが、入管はこういう嫌がらせをするんだな、と。以前、横浜支局の被収容者から、臭うご飯や腐ったフルーツが出てきたと聞かされたのですが、その話を思い出しました」。

事実の一部を切り取って話し、聞く側が困惑し、被収容者を疑うように誘導する。入管側のこうしたやり方は支援者からも耳にする。

体重の推移のグラフについても「石岡局長は『毎日、体重を測っているはずない』というので、本人に尋ねると『車椅子のまま体重計に乗り、医師が計測した数字を記録しています。なぜ局長は、私が体重を測っていないと石川先生に伝えたのか、理由がわかりません』といっていました」と話す。

入管の医師は、ジャヤンタさんの嘔吐や体調不良は収容によるものだと話している。だが、再収容後、彼が何度も意識を失って倒れているにも関わらず、経過観察を続けているだけだ。

申し入れの際、石川さんは医師に会って話がしたいと伝えたそうだが、石岡局長は「東京入管を代表して自分が応じている」といい、直接、医師に状況を聞くことはできていない。


大事なのは世論が動くこと


石川さんが最初に入管問題に関わったのは、LGBTの権利のために活動を始めた翌年の2001年。

「同性愛者は死刑になるイランから逃れてきた男性が、牛久に収容されていて。彼の仮放免を求めて、当時、社民党議員だった田嶋陽子さんたちに同行して牛久に行きました。僕はまだ区議でもありませんでしたが、入管施設の内部を見学して衝撃を受けました。アムネスティも本件に申し入れをしていたためか、交渉後、夕方に仮放免が出て、彼を奪還して一緒に東京に戻るという映画のワンシーンみたいなことが起きたんです。その後、国会議員になって、昔ご一緒した弁護士さんたちから『入管は前よりひどくなっている』と聞き、また関わり出しましたが、確かに多くの問題を感じています」。

 

野党は、政府の入管法改正への対案として「難民等の保護に関する法案、出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律案」を2021年の通常国会に提出している。国際難民条約を批准していながら、難民の人たちを支える意識が低すぎる日本が国際基準で行動するためには、出入国管理庁から難民申請を切り離し、独立した難民認定委員会が公平・公正に審査する必要があると石川さんはいう。

「議員が問題提起しても、それだけでは変わりません。入管の現状をメディアがしっかり報道し、国民もそれに反応して世論が動く。大事なのはそういうことだと思います」。

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