入管問題を考える なぜ在留資格が与えられないのか(2022年4月25日号)

 3月6日、全国8カ所で開催された「3・6ウィシュマさん一周忌全国一斉追悼アクション」。東京では、ウィシュマさんの死の真相究明や長期収容の反対などを訴え、300人を超える市民が東京出入国在留管理局(東京入管)の周囲を行進するデモに参加。この後、行なわれた集会での発言者の1人が「夫(仮放免者)の在留資格を求める日本人配偶者の会」(配偶者の会)のなおみさんだった。

なおみさんは17年前に出会ったスリランカ出身のナビンさんと2016年の秋に結婚。婚姻届が役所で受理されているにもかかわらず、入管は彼の配偶者ビザを出さないまま、既に5年半が過ぎている。入管や法務省、政府の対応は、憲法13条と24条が保障する幸福追求権や婚姻の自由と照らし合わせて問題ないのか。なおみさんとナビンさんが置かれた状況から考えてみたい。

倒産した学校に「相談して」

2人が出会ったのは2005年。ナビンさんは日本で就職することを目指し、日本語学校の留学生として来日していた。ところが、通っていた学校が倒産、閉校するという事態に巻き込まれてしまう。

日本語力が十分でない中、学生ビザが切れる前になんとかしなければと、入管に足を運んだ彼への職員の対応は「学校に相談してください」というものだった。入管に相談に行ったのは、学校が閉鎖してしまったからだ。にも関わらず、留学生のためのセーフティネットすらない。日本の制度不全の問題は、こんなところにも表れている。

こうしたトラブルの末、超過滞在になってしまったナビンさんはこれまで3度、入管に収容されている。

「2度目の収容は明らかに入管のミスによるものでした。入管は自分たちのミスを認めませんが、さすがにこの収容はすぐに解かなければと思ったのでしょう。彼は『早く(仮放免の)申請書を出すように』といわれ、この時は2カ月で仮放免になりました。この頃(2016年)には、既に2人の間で結婚の意思が固まっていたので、弁護士の先生と私が保証人になって、仮放免が認められたその日から、私たちは一緒に暮らし始めました」。

ナビンさんが仮放免中のため、婚姻届を提出した役所の窓口は、担当省庁である法務局に連絡。インタビューや調査などを受けたものの、婚姻届は無事、受理された。ところがその4カ月後、ナビンさんは再々収容されてしまう。

収容で20キロ近く減った体重

その時の状況について、なおみさんは次のように話す。

「夫は最初の収容時に、政治的な理由から難民申請をしていました。その日は仮放免の延長の日で、1人で東京入管に行ったのですが、難民申請が不許可になり、強制退去令書が出たからといわれ、そのまま収容されてしまったんです」。

ナビンさんの収容中、なおみさんは毎週、面会に足を運び、仮放免を認めてほしいと職員に訴えた。

「それまで元気だった夫が食事を摂ることもできず、体重が20㌔近く減って点滴を受けるなど、見ていられないほど変わってしまったんです。面会に行く度に『夫に何かあったら、あなたたちに責任を取ることができるんですか。仮放免で外に出してくれたら、私が夫を医者に診せますから』と訴えていました」。

面会担当の職員に「自分たちには何もできないので、処遇部門に行ってください」といわれたなおみさんは、最終的に処遇部門のトップと、担当の看護師に直訴する。この訴えが通じたのか、約3カ月後、9カ月間の収容を経て、ナビンさんの仮放免は認められた。

結婚の実態認めながらも

だが、仮放免である限り、就労も、健康保険への加入も、入管への事前申請なしに居住地以外の都道府県に行くこともできない。

「夫が仮放免であるなしに関わらず、女性が1人で家計を支えるのは大変なことです。入管は、私たちの結婚は実態があると認めていて、家に調査に来ることも、個別にインタビューに呼ばれることもありません。それなのになぜ、配偶者ビザを出してくれないのか。職員に尋ねても『上が決めることなので』というだけです。夫は何より仕事がしたいといいます。仕事は生活の基本です。就労を認めてもらえれば、支援に頼ることもなく、税金も納めて、国に貢献することもできます」。


なおみさんたち同様、結婚生活の実態がありながら、配偶者の在留資格を認められず、困難を強いられている人たちが、自分たちの状況を伝えようと集まったのが、冒頭で紹介した「配偶者の会」だ。

「1日も早く夫のビザを出してもらうにはどうすればよいか。議員やメディアにどう働きかけるかを話し合っています。デモなども一緒に参加しますが、同じ境遇の仲間と悩みや愚痴を共有するだけでも、気が楽になります。誰にも頼ることができず、孤立している人も少なくないと思うので、そういう人にはぜひ、連絡してもらいたいです」。

まずは自分たちの状況を多くの人に伝え、これはおかしいという世論を高めたいと話すなおみさん。

「私たちはただ、普通の結婚生活を送りたいだけなんです」。

彼女たちの掛け値なしの気持ちを、入管はどのように受け止めるのだろうか。


このブログの人気の投稿

守られぬ患者の安全ー聖路加国際病院で牧師が加害

311甲状腺がん裁判④ 「私たちは今、匿名で闘っていますが、 一人ひとりに名前があります」

映画『夜明けまでバス停で』〈共感〉を超える「彼女は私だ」