【狭山事件】半世紀を超えて冤罪とたたかう石川一雄さんに支援を(2022年5月10日号)

部落解放同盟 中央本部

安田 聡

 

▼狭山事件とは

59年間、無実を叫び続けている人がいます。

石川一雄さん、83歳。1963年5月1日、埼玉県狭山市で起きた女子高校生殺害事件、いわゆる狭山事件で、ある日突然、警察に逮捕されました。無実を訴えましたが、違法な取調べでウソの自白を強要、誘導され、犯人にでっちあげられたのです。


1審では死刑判決、2審で無実を叫びましたが東京高裁は無期懲役判決を出し、最高裁で確定。1977年、石川さんは千葉刑務所に下獄しました。32年7か月の獄中生活を経て仮出獄したあとも無実を叫び続け、裁判のやり直し(再審)を求めています。


▼無実の新証拠—筆跡鑑定


狭山事件では、犯人が被害者の家に届けた脅迫状と石川さんの書いた上申書などの筆跡が一致するとして有罪の証拠とされました。

第3次再審では、逮捕当日に石川さんが書いた上申書や取調べを録音したテープが証拠開示されました。取調べテープには、石川さんが字を書いている場面が録音されており、警察官が字の書き方を教えていることがわかりました。石川さんが取調べで書いた文字はほぼ全てひらがなで、しかも促音や拗音が正しく書けていません。「学校」を「がこを」、「工場」を「こをじを」、「署長」を「しちよん」と書いています。石川さんがひらがなの表記のルールを知らなかったことは明らかです。小学校も十分に行けなかった石川さんは、24歳当時も読み書きができなかったのです。

一方、脅迫状には漢字が多く書かれており、「いッて」「気んじょ」のように促音も拗音も正しく書けています。森実大阪教育大学名誉教授は、当時の石川さんは部落差別によって文字を奪われた非識字者であり、脅迫状を書けなかったと鑑定しています。

さらに、福江潔也・東海大学教授(鑑定当時)は、コンピュータを使って文字を重ね合わせたときのズレ量(筆跡の相違度)を計測する新しい筆跡鑑定を行ない、脅迫状と上申書は別人の書いたものという鑑定結果を明らかにしました。

そもそも脅迫状には、石川さんの指紋はありません。石川さんが脅迫状を書いた犯人でないことは明らかです。


▼無実の新証拠—下山第2鑑定


狭山事件では、自白通り、石川さんの家から被害者の万年筆が発見されたとして有罪の証拠とされました。下山進・吉備国際大学名誉教授は、蛍光X線分析装置を使って、この万年筆が被害者の物だといえないことを科学的に明らかにしました(下山第2鑑定)。蛍光X線分析は、物質にX線を当てて検出される蛍光X線から物質に含まれる元素を調べるものです。

第3次再審請求で、事件当時、石川さんの家から発見された万年筆で数字を書いた紙(が添付された調書)が証拠開示されました。

下山第2鑑定では、この数字のインクと、被害者が事件当日に自分の万年筆を使って授業で書いたペン習字の文字のインクの元素を蛍光X線分析装置で調べたところ、被害者が事件当日に書いたペン習字や被害者が使っていたインク瓶のインクにはクロム元素が含まれていましたが、発見された万年筆で書かれた数字のインクには、クロム元素が含まれていないことが判明しました。成分の元素が異なる、すなわちインクが違うわけですから、発見万年筆は、被害者が使っていた万年筆とはいえません。有罪の証拠とされた万年筆はねつ造された疑いがあります。


▼鑑定人尋問・再審開始を


狭山事件再審弁護団は2006年5月23日に東京高裁に第3次再審を申立て、これまでに246点の新証拠を提出してきました。弁護団は、今後、提出した新証拠について、鑑定人尋問を請求することにしています。

東京高裁が鑑定人尋問を行ない、再審を開始するかどうか、今年後半には重要なヤマ場を迎えます。狭山事件の再審請求を審理する東京高裁第4刑事部(大野勝則裁判長)は鑑定人尋問を実施し再審を開始すべきです。

石川一雄さんは、今年1月で83歳になりましたが、石川早智子さんとともに元気で生きる闘いを続けています。石川さんのビデオメッセージは部落解放同盟中央本部のホームページで配信しています。

鑑定人尋問、再審開始を求める市民の声をさらに大きくし、東京高裁に届けるとともに、再審法改正、司法改革を国会に訴えていくことにしています。

ルポライターの鎌田慧さんは、狭山事件の再審を求める市民の会を結成し、今後、東京高裁に鑑定人尋問、再審開始を求めるあらたな署名運動を始めることにしています。5月24日(火)13時から、日比谷野外音楽堂で市民集会も開催しますので、ぜひご参加ください。

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