住まいの保障は私たちの権利実効性ある居住政策を(2022年5月25日号)

 


▼誰もが人間らしく生きるために

人が生きる上で、住まいが必要であることに疑う余地はない。住まいは「生活の器」であり「社会生活の基地」でもある。住まいがなければ、人間らしく生きることはできない。同時にその人の存在証明でもある。住宅を確保していることで住民票を持ち、就学し、職に就き、社会サービスを受けることができる。住まいを失うと就業するのは非常に難しく、住まいの回復も困難になる。しかしながら住まいは土地に付随し、購入するにも借りるにも高価であり、個人が確保するには限界がある。

こうしたことから、世界大戦後、国際社会は住居を全ての人の衣食住の権利として掲げ、実現に努力してきた。1948年の世界人権宣言をはじめ、国際人権規約、子どもの権利条約等々である。さらに国連人間居住会議(ハビタット)の3回の会議を通して、居住の権利が議論されている。

日本においては、憲法25条の生存権と国の社会保障義務がある。これを根拠に公営住宅法や生活保護法があるのだ。私たち誰もが「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を有するのである。

最近では、国連持続可能な開発目標(SDGs)の目標11の第1項に「2030年までに、全ての人々の、適切、安全かつ安価な住宅及び基本的サービスへのアクセスを確保し、スラムを改善する」が掲げられている。ところが、日本ではこれを取り上げていない。誠に奇異である。


▼居住の危機と住宅政策


コロナ禍が長期化する中で、従来から深刻になっていた居住貧困に苦しむ人々がさらに増えている。

コロナ禍での居住貧困の特徴は、①非正規雇用あるいはフリーランスの労働者が居住の危機にあること、②女性の問題であることだ。働く女性の半数以上が非正規雇用であり、働いていた飲食店やサービス業等がコロナ禍で休業・廃業したからである。シングルマザーの苦境は著しく、住宅は何とか確保するが、食費を切り詰め子どもの体重が低下したことも報じられている。

こうした時こそ、国の住宅セーフティネット法(住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律、2017年改正)の出番だが、受け皿となる民間賃貸住宅は家賃低減策が不十分で、家主は困窮者を受け入れるリスクを考え、普及していない。

さらに、救済どころか公営住宅の供給は削減され、全国の公営住宅の管理戸数は、2005年度末から2020年度末迄で5万2000戸以上も削減されている(国交省)。

コロナ禍の居住の危機に対して、国交省は公営住宅の一時使用を、厚労省は住居確保給付金の支援を行なった。後者は、市区町村ごとに定める額を上限に実際の家賃額を原則3カ月間(延長2回9カ月まで)支給するもので、条件緩和により申請件数が飛躍的に増えた。2020年度の申請件数は15万3000件、決定件数13万5000件である。問題はいずれも一時的で、抜本的解決にはなっていないことだ。


▼早急に住居費負担の軽減を


コロナ禍を契機に、誰もが住宅を失わない政策、住まいの権利を据えた居住保障政策に転換したい。その柱は、低家賃で良質な公的住宅の供給と、住居費負担の軽減(家賃補助)である。家賃補助を恒常的な制度に転換するか、生活保護から住宅扶助を独立させ、利用しやすくする等の方法を早急に検討し、実現する必要がある。

「住宅貧困ネットワーク」や、様々なNPO等が制度改善を要求し、居住支援に取り組んでいる。若者も立ち上がった。「家あってあたりまえでしょプロジェクト」だ。高すぎる家賃に対抗し、「ホームレス」の人々への居住支援を行なう若者の真っ当な要求でもある。

実現する力は、市民にある。

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家賃補助に関しては、東京都目黒区等13の特別区で実施しており、これを参考にするのもよい。また、日本住宅会議編『借家の居住と経営 住宅白書2017—2019』(2020年)では家賃助成を含めて借家全体のことがわかり、日本住宅会議のホームページから見ることができる。『生活保護解体論』(岩田正美・岩波書店、2021年)には、住宅扶助から住宅手当への提起がある。


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