「対策内地域」とは何だったのか──放射性廃棄物の再利用(2022年3月10日号)

 電福島第一原発事故から11年を迎える。直近2年のコロナ禍の裏では、様々なことが進行していた。特に、浜通りには人の目が少ないため何が行なわれているのかわかりにくい。人知れず進んでいる大量の放射性廃棄物の再利用、第三者委員会等の監視が必要なのではないかと思う予算の使われ方。浜通りの現実をあるく。

 

災害廃棄物をリサイクル

原発事故により発生した、「対策地域内(飯舘村・南相馬市・川俣町・浪江町・葛尾村・双葉町・田村市・大熊町・川内村・富岡町・楢葉町)」の災害廃棄物が、通常の再資源化ルートにのり、既に流通している――。8000ベクレル/㎏以下のコンクリートがら、金属くずや木くずなどの廃棄物が、「有価物」として民間のリサイクル業者に約207万トン(2022年1月31日現在)出荷されていた。

それを知るきっかけになったのは、2021年11月、中間貯蔵施設敷地付近を取材中、廃棄物の山を指差しながら「あれは、リサイクルに回るんじゃないかな」と地元住民が説明してくれたことだった。リサイクル、つまり再資源化である。

「廃棄物は3000ベクレル/㎏以下かつ、利用対象は公共事業のみではないか」と疑問に思い、調べていく中、和田央子さん(放射能ゴミ焼却を考えるふくしま連絡会)に出会った。彼女の蓄積された情報に加え、偶然、リサイクル会社の資料を入手する機会が重なった。その2つをもとに、環境省、相双スマートエコカンパニー、福島地方環境事務所を取材し、明らかになったものだ。





「帰還促進」狙った安倍政権

汚染土の再利用には関心が集まり、現在は実証実験段階だが、なぜ廃棄物の再資源化がここまで進んでしまったのか。

環境省では、土と廃棄物を「除染で出た(土)」「災害で出た(廃棄物)」と、分けて考えている。担当課も異なり、土は除染や中間貯蔵の担当課、廃棄物はリサイクルの担当課だった。土は8000ベクレル/㎏以下、再利用には一応慎重姿勢を見せているが、廃棄物はほとんど野放しだ。行なわれていることに齟齬がある(ように見える)が、行政側の理屈では筋が通っていたりする。それは、法令や通知文書を追っていくとわかる。

廃棄物は8000ベクレル/㎏以下になれば、「廃棄物処理法」の適用になり、「通常の処理」ができてしまう。その廃棄物処理法には、2015年(閣議決定を乱発していた安倍政権時代)、災害廃棄物という項目をわざわざ作り、処理を「円滑かつ迅速に」という文章が加えられ、閣議決定されている。これには大きな意味があった。

安倍政権は、とにかく「帰還」を急いでいた。当初、避難区域の人たちも「オリンピックを家族と自宅で」というスローガンを掲げていた頃だ。しかし、この頃、自民党が毎年出している『復興加速化提言』では、5年で帰還という言葉が6年に延びている。延長した理由の一つは、想定よりも多かった廃棄物だった。廃棄物処理を「円滑かつ迅速に」と焦っていたのは、帰還促進のためだったのだ。

本来、対策地域内廃棄物は「対策地域」と言われるほど、比較的汚染の高い地域のものだ。しかし、8000ベクレル/㎏以下になれば、「廃棄物処理法」の適用で処理されてしまう。すると、8000ベクレル/㎏以下であれば、通常ルートでの再利用が可能になる。そういった経緯で、すでに207万トン、再利用されているのだ。


独特な廃棄物業界

取材での裏話がある。

相双スマートエコカンパニーに電話をすると、「環境省から、あなたから電話があると聞いていた」と言われたのだ。環境省が連絡をしていたことには少し驚いた。

もう一つ驚いたのは、その電話番号が変えられてしまったことだ。相双スマートエコカンパニーの担当者には誠実な印象があったが、週明けにはネット検索で表示される電話番号が差し替えられていた。

携帯電話の履歴から電話をすることはできたが、おそらく、問い合わせが殺到する可能性を考えたのだろう。廃棄物関係に詳しい専門家にそれを話すと、「産廃関係ではそういうことがよくあります」と言った。

相双スマートエコカンパニーの担当者は「迷惑施設だという自覚があるから、静かにやる、というところはある。産廃業者はいつもそのジレンマ」と話していた。

そもそも環境省が、事業者に濃度測定の基準を示さず、責任を押し付けている実態が問題の根底にある。クリアランスレベルの100ベクレル/㎏(原子炉等規制法)、8000ベクレル/㎏(放射性物質汚染対処特措法)の二重基準についても解決されていない。

改めて、廃棄物再利用の制度の正当性、情報公開、そして管理体制を見直すべきだろう。

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