大学の自治を破壊する国際卓越研究大学法

河 かおるさん(滋賀県立大学)


 

研究成果活用で「稼げる大学」に?


「あの法の成立が、学問の自由や大学の自治破壊の決定的な曲がり角になったね」と後に言われるかもしれない法律が、選挙前の通常国会で成立してしまいました。「国際卓越研究大学の研究及び研究成果の活用のための体制の強化に関する法律」(国際卓越研究大学法)です。「大学ファンド法」と称されていることもあります。

私自身は「卓越」からは程遠い落ちこぼれだし、勤め先の地方公立大学も「国際卓越研究大学」に手を挙げることはないでしょうが、「大学の自治がこれ以上瀕死になったらマズイ!」という一心で、今年3月頃から「稼げる大学法案の廃案を求める大学横断ネットワーク」の一員として、廃案のための署名集め等をしていました。

「稼げる大学」という言葉は、法案の基になる方向性を審議していた会議で出てきました。私たちがこの「稼げる大学」というネーミングを使って廃案運動をしたのは、法律の名前にも条文にも繰り返し出てくる「研究及び研究成果の活用」のうち、「研究成果の活用」に問題が凝縮されていると考えたからです。

研究の強化を図るだけなら、科学研究費を増額し、研究グループ(複数の大学にまたがる場合が多い)を対象に助成すればよいはずです。ところが、この国際卓越研究大学法は、研究グループでなく僅か数校の大学を選定し、10兆円大学ファンドの運用益から1校当たり年間数百億円も助成して、その大学が「研究成果の活用」によって自ら「稼げる」ようになることを求めます。

この究極の「選択と集中」を受ける国際卓越研究大学を選ぶ基準や方法等、具体的な中身はまだ決まっていませんが、助成対象の決め方が従来と全く異なることははっきりしています。例えば、これまでは日本学術振興会という専門家集団が審査の役割を担ってきましたが、国際卓越研究大学法では、文部科学大臣が2つの諮問機関の意見を聞いて決めることになっています。その諮問機関のうちの1つは内閣総理大臣が議長を務め、閣僚が6人も入るのです。専門家によるピア・レビュー原則(専門家同士が互いに評価し合う)を無視し、政治主導で認可が行なわれる制度になっているのです。

「稼げる」ようになるため、国際卓越研究大学に認定された大学は、規制緩和と経営管理体制の改革が進められることになっています。規制緩和項目の中には「授業料の上限の弾力化」もあり、授業料が爆上がりするかもしれません。学長の上に、学外者を中心とした最高意思決定機関を置くことまで求めています。これでは政財界の意向が大学に直接貫徹され、自治が跡形もなく消されてしまうかもしれません。


学問の自由と大学自治を


先の通常国会では、経済安全保障推進法(経済安保法)も成立してしまいました。東京新聞は4月26日付1面「経済安保法案 軍事研究加速へ道 巨額国費で研究者取り込み」で端的に核心を伝えていますが、経済安保法により、軍事研究にかつてない規模の予算が付きます。

防衛省は2015年、軍事研究に対する助成を始めますが、日本学術会議が2017年に「軍事的安全保障研究に関する声明」を出したこともあり、多くの大学は手を出しませんでした。

安倍・菅政権はこれに業を煮やし、2020年に日本学術会議会員への任命拒否を行なったわけです。こうした流れから、軍事研究に東大や京大などのトップ大学が参加するよう、大学の自治を破壊し、政治介入可能な国際卓越研究大学制度を作ったのだろうと思うのは考え過ぎでしょうか。

国際卓越研究大学法が、大学から自治を完全に奪い、大学や学術のあり方を決定的に変えてしまう最後のとどめになるのではないかと危惧しています。日本の研究力低下を憂うなら、「大学ファンド」で助成すれば「稼げる大学」になる等という怪しい錬金術のような政策はやめるべきです。

十分な基盤的経費の上に、憲法23条の学問の自由とその制度的保障たる大学の自治を守ってこそ、豊かな研究が生まれると信じます。

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