宗教右派とジェンダー・セクシュアリティ政策 「個人」より「家族」尊重に注視を

斉藤正美(さいとう・まさみ) 富山大学非常勤講師。博士(学術)。専門は社会学。フェミニズム、メディア研究。共著に、『社会運動の戸惑い──フェミニズムの「失われた時代」と草の根捕手運動』(勁草書房)、『国家はなぜ家族に干渉するのか』(青弓社)、『徹底検証 日本の右傾化』(筑摩書房)など。




自民党などの保守系政治家と「世界平和統一家庭連合」(旧統一教会)の関係は、選挙協力や集会へのメッセージなどの単なる儀礼的な付き合いに留まらない。だが、具体的にどういった思想で共鳴し、どのような政策に影響を及ぼしているかについては、テレビ局も新聞社も、あまり掘り下げてはいない。


私は、2000年代半ば以降、旧統一教会をはじめとする宗教右派による男女共同参画やLGBTQの人権に対するバックラッシュについてフィールドワークを行ない、その成果を山口智美、荻上チキとの共著『社会運動の戸惑い—フェミニズムの「失われた時代」と草の根保守運動』(勁草書房)で発表した。旧統一教会の信徒が2000年代後半に富山県、福井県でそれぞれ男女共同参画推進員に応募し、「結婚や家族があらゆるものの中心に位置し、すべての根幹をなす」といった統一教会による「家庭重視」の視点から推進員が取り組む男女共同参画の寸劇の内容を変え、また図書室にある男女共同参画関連図書の選書を見直そうとする活動を行なってきたことを報告。また、2003年に制定された宮崎県都城市の「男女共同参画社会づくり条例」に「性的指向にかかわらず」という文言が同性愛・両性愛の権利擁護として入ることに統一教会系メディア『世界日報』の記者が危機感を持ち、それを変えさせる働きかけをした。2006年新しい市長が合併を理由に再制定し、「性的指向」の文言が外された経緯も、10年前に本書に記述した。

さらに2016年、フィールドワークのために富山の旧統一教会系の集会に参加したことについては、塚田穂高編著『徹底検証 日本の右傾化』(筑摩書房)で報告した。その集会で自民党富山県議の男性は「家族の価値を求めて」という題で登壇し、男女平等や男女共同参画などは権利ばかりを主張すると説いた。私には、男女共同参画が「家族の価値」に反するという主張に聞こえた。自民党県議にとって「よき家庭(家族)の価値」とは、女性が子どもを産み家族のために働き自己主張しないことであり、そうした「自助」を「家族の助け合い」と捉えているように思えた。

同教団は、ジェンダーやセクシュアリティ政策に強い関心を注ぐ宗教団体だ。しかしこの間、旧統一教会や日本会議などの宗教右派が、ジェンダーやセクシュアリティ政策に強い関心を示してきたことは、フェミニスト以外には広まらなかった。

だが安倍元首相が旧統一教会との関連で銃殺されたことが報道された途端、10年前の『社会運動の戸惑い』や5年前に出た『徹底検証日本の右傾化』が突如話題になり、売り切れになった。関心が向けられることが少なかった「宗教右派とジェンダー問題」に光が当たるのは結構なことだが、こうした稀有な機会は、たちまち雲散霧消に至るかもしれないとも思う。


こうした状況下、本稿では2012年自民党が策定した改憲草案、特に24条に「家族」が盛り込まれていることについての危機感を共有したい。

改憲草案24条では、現行憲法には存在しない「家族は社会の自然かつ基礎的な単位として尊重される。家族は、互いに助け合わなければならない」という規定を新設し、それを第1項とした。さらに現行憲法13条の「全て国民は個人として尊重される」について、改憲草案では「個人としての尊重」から「人としての尊重」に変更している。13条で「個人」を削除し、24条で新たに「家族の尊重」規定を創設したことを合わせてみれば、自民党は「個人の尊重」よりも「家族の尊重」を重視している。しかも、社会福祉という発想を捨てたかのように、「家族の助け合い」という「自助」を強調する。

現実の家族は、単独世帯やひとり親世帯の割合が増大し、事実婚や同性カップルなどと形態は多様化している。しかし改憲を訴える自民党は、「家庭の教育力の低下」や家庭内の「児童虐待」を指摘する一方、「家族という(幻想の)共同体」に過剰な期待を込める。これは、家庭教育支援や親学びなど家庭の責務を国や地方自治体が強調し、地域が一体となって親の責任を強化する流れと地続きだ。


「家族」像に若干違いはあるものの、理想の「家庭(家族)」への熱い思いは、旧統一教会ばかりではなく「全国民からファミリーネームを奪う」と夫婦別姓に反対する「神社本庁」や、「結婚と家族に目を向けよ」と、常々少子化対策の必要性を訴えている日本会議系シンクタンク「日本政策研究センター」など宗教右派やその界隈に共通している。だからこそ私たちは宗教右派と自民党が取り組む「家庭・家族」などのジェンダー・セクシュアリティ政策に注意を払い、女性や性的マイノリティの権利が侵害されないよう警戒を続ける必要がある。 


(2022年9月10日号)



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