311甲状腺がん裁判  原告6人全員の意見陳述を大法廷で


 今年1月27日に提訴された「311子ども甲状腺がん裁判」。5月26日の第1回期日では、一般傍聴席27席をめぐり、倍率が10倍になった。社会的関心の高い裁判だが、進行において、2つの問題がある。8月23日、原告と弁護団の弁護士が、問題改善を求める署名提出と、記者会見を行なった。

       

「311子ども甲状腺がん裁判」の第一回期日は、傍聴席112席の大法廷で開かれた。しかし、9月7日の第2回期日以降は、52席の小さな法廷。原告・弁護団は、大法廷を望んでいる。

もう1つの問題は、原告側が、原告6人全員の意見陳述を求める中、3人の意見陳述しか行なわないという裁判所の考え方だ。第3回までは意見陳述を認め、1回の人数は問わないとはいうものの、原告一人ひとりの甲状腺がん罹患後の経験は、短く済ませられるものではない。

その2つの問題について原告と支援団体は6月21日から署名活動を行ない、8月16日までに集まった6395筆の署名を裁判所に提出。

「大法廷で原告6人が自分の言葉で裁判官に気持ちを伝えたいと願っています。6人の被害の実情は、それぞれ違います。がんと診断されたタイミング、生活への影響も異なります。大学、就職、夢を諦めた子や、再発、転移している人もいます」。そう、原告は訴える。

北村賢二郎弁護士は「本人の言葉で本人の心情を伝えることが『訴える』ということではないか」と問い、斎藤悠貴弁護士は「両親にも言わずにいた隠された思いを少しずつ話してくれて、そして一人ひとりが違う」と話した。

       

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会見のあと、原告の1人に話を聞いた。ちひろさん(26/仮名)は、自身も甲状腺がんを罹患した原告でありながら、自分より幼い他の原告を思いやるお姉さん的な存在。第一回(5月26日)の期日では、意見陳述を行う様子を、原告3人が衝立越しに見守っていた。

「私と、他に2人の原告がいました。普段、あまり感情を表に出さない2人なんですが、1人はずっと泣き続けていて、終わったあともずーっと泣いていて、本当に苦しい経験をしてきたんだな、と思いました。もう1人も、家族にも弱音を吐かないんです。その子も、泣いていました。意見陳述の親への感謝のところ、再発のところ、手術しても治らなかったところでみんなが泣いていて、同じ気持ちなんだな、と思いました」。

9月7日の第2回の期日に向けての思いを聞くと、「今回お話をする子は、私に懐いてくれていて、かわいいんです。一番年齢の低い子で、将来に対する不安が大きくて。つらい症状も持っていて、私が一番気にかけている子。親を心配させないように、苦しい思いを誰にも話さずにいたのだと思うので、意見陳述を作るにあたって、自分の気持ちと向き合って、少しでも明るい気持ち、頑張ろうという希望になってくれたらいいなと思っています」。

第2回の期日で意見陳述するその子は、つらい経験に対する感情を、常に押し殺してきたのだという。

       

他方、裁判が始まってからも、国内外で、原発事故と甲状腺がんとの因果関係を否定する動きは活発さを増している。今年1月、小泉純一郎氏、菅直人氏ら首相経験者5人が「多くの子どもたちが甲状腺がんに苦しんでいる」という書簡を欧州連合(EU)の執行機関・欧州委員会に送ったところ、現職の国会議員や内堀雅雄福島県知事が「誤った情報」「不適切」「遺憾」などと抗議を示した。また、7月にはUNSCEAR(アンスケア)の前議長らが「福島原発事故後の、被ばくによる健康への影響はない」と結論づけた報告書を内堀県知事に手渡し、県知事はその報告書を歓迎している。

「世界的な大きなものと闘っている実感があって、手強いと思ってしまう」とちひろさん。

それでも頑張ろうと思えるのは、寄付を募った際に、多くの応援メッセージがあったからだ。「私だけではなく、裁判の原告や親族も同じ気持ちです。屈しないで裁判を頑張ろう、と思っています」。

もう1つ嬉しいこともあった。この裁判に、原告が1人増えたことだ。「本当に嬉しいし、勇気を出してくれてありがとうと思っています。明るい子ですぐに馴染んでくれました」と笑顔を見せる。

       

今回の署名は、「大法廷」と「全員の意見陳述」を要望しているが、ちひろさんの陳述の順番は、第3回以降。裁判官に認められた形でのちひろさんの意見陳述は実現しない可能性もある。「一人ひとりの生の声を伝えることでわかってもらえることがあるのではないかな、と思っているので、全員認めてほしいと思っています」と、ちひろさんは話す。

第1回期日の終了後、裁判官が衝立のほうにやってきて、「こんな狭いところでごめんね」と声をかけてくれたのだと言う。ちひろさんたち原告が望む形での裁判が進むためにも、多くの人々の関心を示す必要がある。


(2022年9月10日号/吉田千亜)


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