地元置き去り デュアルユース産業開発と「復興」




浜通りの「福島イノベーション・コースト構想」は、「東日本大震災及び原子力災害によって失われた浜通り地域等の産業を回復するため、当該地域の新たな産業基盤の構築を目指す国家プロジェクト」として進められてきた。ロボット、エネルギー、廃炉、農林水産等の分野で進められ、産業集積や人材育成、交流人口の拡大等に取り組まれている。

9月半ば、「ロボテスEXPO2022(ロボット・テストフィールド/南相馬市)」が開催された。

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普段、南相馬市のロボットテストフィールド内部の見学はできない。今回の「ロボテスEXPO2022」では1時間半のバスツアーが組まれ、フィールド内のいくつかの実証実験施設を回った。参加者の多くが参入を検討する企業。「復興」の一端を報じるためなのか、いくつかのメディアが入り、参加者にカメラを向けていた。

最初に向かったのは、緩衝ネット付飛行場。ここでは大きな芝生のグランドがネットで覆われていて、自由にドローンを飛ばすことができる。最大90キロの速度で移動ができる小型カメラ搭載のドローンが縦横無尽に飛ぶのを見学した。

次に向かったのは「風洞棟」と呼ばれる施設。大きなドローンが、巨大扇風機の前に設置され、強風の影響に耐えうるかを轟音の中で実験していた。

最後に向かったのは、瓦礫の積まれた空き地だった。ホース状のロボットが、その瓦礫の隙間を縫って進む様子を見学。これは、災害時のためだという。

本会場の大きな倉庫には展示ブースが設けられ、入口には人型のロボットが聳え立っていた。案内役の人が、説明の中で「ロボットは使い方によります」と一言。屈強そうな本体の先に、繊細な動きをする「手」が、鐘を鳴らしていた。




様々なブースが展示され、「イノベーションコースト構想推進機構」の職員からは「地域復興実用化開発等促進事業費補助金」を紹介された。「参入企業には最大で7億円の補助が出る」という。

イノベーションコースト構想に参画する企業は、掃除・調理ロボ、農業用・物流ロボやドローン等を製造・開発している。生活分野で活躍するための技術としてアピールされ、それらを利用する人のために、シェアマッチングアプリ「ロボすぐ」というサービスを提供する企業も。人口が少ない町でも、ロボットやドローンが活躍することで、暮らしが成り立つということなのだろう。

一方で、自動追尾飛行や撮影UAV(無人飛行機)システム、人機並進駆動ユニット(株式会社人機一体)など、ものものしいロボットやドローンも紹介されていた。「ぶつかっても壊れない」が謳い文句の製品、UAVを用いた即応海洋観測・監視プラットフォームの実用化開発なども行なわれている。軍事転用が可能なことは容易に想像できる。

イノベーションコースト構想への参入は、前述の7億円にとどまらず、起業・創業のチャレンジのための「イノベーション創出支援助成金」もある。試作品開発や市場調査、実証などに対し、最大1000万円まで助成されるものだ。「メードインふくしまロボット導入支援補助金」は、1台あたり100万円、同一機種当たりの補助上限額は1500万円。さらに、ロボットテストフィールドの使用料に対しても助成金や特許特例措置もあり、とにかく「使ってほしい」「開発してほしい」ということなのだろう。

ちなみに、このロボットテストフィールドには、JAXA(宇宙航空研究開発機構)も早い段階から参画し、2019年には一般のドローン事業者も加わってドローン運航管理システムの相互接続試験にも成功している。

第一次安倍内閣の2008年5月に、宇宙基本法は審議が不十分なまま、可決・成立した。この時、これまで貫かれていた「宇宙の平和利用」といった理念が死文化し、宇宙の軍事利用が合法化されたという流れがある。

2012年には、JAXA法から「平和の目的に限り」が削除され「宇宙基本法第2条の宇宙の平和的利用に関する基本理念にのっとり」という文言に修正された。JAXAの理事も、2015年には「防衛省に使ってもらうことは、我々の技術レベル向上につながる」と発言したという。


今なお、帰還困難区域を示す家々のシャッターはあちこちにある。それを見るたびに胸が痛み、地元が置き去りにされている感覚にとらわれる。


(2022年10月10日号)





 

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