映画『裸のムラ』五百旗頭幸男監督にきく──ムラが裸にされたとき見えるもの

 前作『はりぼて』は、不正によって次々と市議会議員が辞めていく様子をコメディータッチで描き、大きな反響を呼んだ。10月8日に新作『裸のムラ』が公開されたばかりの監督・五百旗頭幸男さんに話を聞いた。




——映画を見終えて、不寛容、忖度、差別、多様性、家父長制、ホモソーシャル等、様々な言葉が浮かんできます。


最初は、忖度や同調圧力という、いわゆる「ムラ社会」をテーマとして考えていました。そこには矛盾が詰まっているので、対比を生かしながらそれをあぶり出し、ムラ社会の2つの「ふへん」─「不変」と「普遍」、それを浮き彫りにしたいと思っていました。

同調圧力と忖度の男ムラ社会である石川県政と、排除されたムスリム社会との対比があり、登場人物の1人、インドネシア人女性がムラ社会を鋭く冷静に見つめ、えぐり出しています。

一方、バンライファー(車中泊で生きる人々)として自由に生きている男性と、同じバンライファーなのに、結局ムラ社会から逃れられずに自由に生ききれていない男性との対比。でも、その見方も、終盤で逆転します。

この映画は、様々な見方があると思います。主たるテーマは、〈この国の暗澹たる部分〉だけれど、どこかに明るさや救いもあったりするんですね。そんなところも伝えたいと思いました。


──前作『はりぼて』同様、コメディ要素もありますね。


石川県政の矛盾を浮き彫りにする話だけだと、それで終わってしまうんですよね。

主人公は、有権者・市民というイメージがあるんです。最終的に観ている人に跳ね返ってくる。笑っていたけど笑えない、許してきたのは誰だというところです。そこまで考えてもらいたいのがあって、コメディ要素も入れています。


──五百旗頭さんも映画に出ていて、ドキュメンタリーについて出演者に説明するシーンがありました。


根本的に日本のテレビドキュメンタリーには作り手を消すという美学があったりもするんですね。でも、僕はやっぱりそれは間違っていると思って。

僕らがカメラで撮っている現実って「ありのまま」ではないんです。僕らがもうそこに介在した時点で変わっている。そうした現実を編集で再構成している。現実を歪めている主体を出さなくてどうするんだって思うんですね。

それがドキュメンタリーだと思うし、そこまで示すのが、作り手としての最低限のマナーだと思っています。僕の不格好な姿もさらけ出さなければダメだし。でも、そこを見せたがらないのが、旧来の大手メディアかもしれません。(笑)

今回、出演してくださったムスリムの家族も、バンライファーの家族も、皆さんすごくさらけ出してくれていると思います。普通ならカメラの前だと取り繕うのにそうではなかった。それが新鮮で、だからこそ撮り続けたいと思いました。


──県政・選挙シーンは男性のスーツで画面が真っ黒でしたね。


逆に、家族を描く風景は色があるんですよね。そこは意識していました。言葉についても、政治家の言葉は上っ面だけど、市井の人の言葉には手触りがある。そこも対比できるんですね。

それから、権力者が女性を都合よく利用していますよね。「いしかわ女性のチャレンジ賞」表彰式なのに、ひたすら「ワクチン」を連呼する県知事や、県知事席の水差しの水滴を、いつもいつも丁寧に拭き取る女性。偶然カメラマンが収めておいてくれたこの細部にこそ、いろんなものが詰まっていると思ったんです。


──舞台は石川県ですが、日本全体のことだと感じられる映画でした。


地方で何かを観察して描く時、そこには日本の縮図が見えます。福島も沖縄もまさにそうですよね。

日本の縮図を生々しく伝える。それが地方で取材する僕らの役割だし、地方だからこそできることで、そこにパワーを感じています。

その視点を大切にしつつ、今後はアジア、世界も視野にドキュメンタリーを配信していけたらと思っています。




五百旗頭 幸男 いおきべ・ゆきお

1978年兵庫県生まれ。2003年チューリップテレビ入社、2020年3 月退社。同年4 月石川テレビ入社。2017年にドキュメンタリー番組『はりぼて〜腐敗議会と記者たちの攻防』で文化庁芸術祭賞優秀賞、放送文化基金賞優秀賞、日本民間放送連盟賞優秀賞。2020年映画『はりぼて』で全国映連賞、日本映画復興賞。2021 年ドキュメンタリー番組『裸のムラ』が地方の時代映像祭選奨を受賞。2022 年『日本国男村』日本民間放送連盟賞最優秀を受賞。富山市議会政務活動費不正受給問題の取材で菊池寛賞、日本記者クラブ賞特別賞、JCJ 賞、ギャラクシー賞大賞を受賞。著書に『自壊するメディア』(講談社・共著)『富山市議はなぜ14 人も辞めたのか〜政務活動費の闇を追う』(岩波書店・共著)。

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