「過労死」「労災」認めぬ裁判所  家事労働を貶める法制度を改めよ




明らかな「過労死」なのに、個人宅で働く家事使用人(家政婦)には労働基準法による労災が適用されない—。今年9月末、東京地裁は、遺族(被災者の夫)が労災不支給取り消しを求めた訴えを退けた。

2015年、当時68歳だった被災女性は、認知症で寝たきりの高齢者のいる個人宅に住み込み、介護と家事を担っていた。亡くなる直前の1週間、ほぼ24時間労働だったという。死因は急性心筋梗塞。夫は、労働基準監督署に遺族補償年金と葬祭料を請求したが不支給とされた。「家事使用人」を適用除外とする、労働基準法116条2項を根拠とされたためだ。


11月9日、遺族と弁護団、支援者ら(NPO法人POSSE)は、女性の労災認定と、家事使用人への労働基準法の適用を求め、要望書と約3万5000筆の署名を厚生労働省に提出。要望書では、国際労働機関(ILO)で採択されている家事労働者の権利を守る国際条約の批准も求めた。

署名提出後、厚労省との交渉が行なわれたが、「労基法116条があるから批准できない」「国家は家庭に入れない」等を繰り返すのみだった。


引き続き、衆議院第二議員会館で学習会が開かれた。

明石順平弁護士によれば、被災女性は、介護部分は訪問介護・家事代行会社(㈱山本サービス)からの派遣とされていたが、家事部分は高齢者の息子と労働契約していた。介護と家事の境界などないことは容易に想像できる。しかも、別々に契約させておきながら山本サービスは「求人票兼労働条件通知書」を介護部分と家事部分を合算・記載して作成。賃金も双方の区別をせず、山本サービスから支払われていた実態がある。加えて賃金から14%もの「紹介料」を天引きしていたのだ。

同社について明石弁護士は「家事使用人派遣事業または家事請負事業」というべきものだとし、介護報酬を受け取るために介護部分のみを派遣とし、家事部分を形式的に息子と労働契約させたのは、旧労働省通達の適用を逃れるための「脱法スキーム」だと批判した。

現在、個人事業主として家政婦をしている土屋華奈子さんは、個人宅という密室での労働実態を話した。

「タオルの畳み方、靴下の干し方までその家に合わせなければならず、家政婦は気働きの必要な感情労働。自分が掃除をしたトイレを使わせてもらえず、近くのコンビニや公園のトイレを使うように言われることもある」。

竹信三恵子さん(ジャーナリスト)は「日本は、ケア労働の対価を値切るために『簡単な仕事』と家事労働を貶めている」とし、労基法の適用を受けない介護・保育労働者を社会保障予算の削減に利用しようとしているのではないかと指摘。貧困化が進めば、女性の「供給」が進む。ギグ・ワーク=女性のケア労働の新しい搾取が可能になるのではないかと懸念を示した。


何の保障もなく、今日も密室で暴力や過労死と隣り合わせで働く女性たち。労基法116条を改正すれば済むことだが、労働者の命や国際条約より、75年間も改正されてこなかった現行法を優先する日本政府。唯一の希望は、厚労省が実態調査を行なうと明言したことだ。

前出の土屋さんは「トイレやお風呂はどうしているのか等、厚労省の調査に期待している」。明治まで遡って調べたが、「女中」の実態もわからなかったという。「誰も記録していない。歴史に残すものと思われていない。記録に残すに値する労働者として認めてほしい」と訴えた。

(光)


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