繰り返された 「強制・自主避難にかかわらず」




福島第一原発事故後の避難者の人権に関する調査のため、国連人権担当特別報告者、セシリア・ヒメネス=ダマリーさんが9月末から10月上旬にかけて来日。政府や福島県の関係者、避難当事者、支援団体、研究者らと面談し、12日間の調査を経て最終日に報告記者会見を行なった。

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ダマリーさんが特に強調したのは、「強制避難者」と呼ばれる人々または強制避難命令で避難を余儀なくされた人々、並びに「自主避難者」と呼ばれる人々または避難命令はないものの避難を余儀なくされた人々は、国連ではどちらも「国内避難民」と定義されており、災害により避難をする権利は、移動の自由に基づく人権であるということ。記者会見では、この点について2度繰り返していた。

さらに、住宅支援の多くが打ち切られたことについて、暮らしの見通しが立っていない貧困層や高齢者、障がい者にとって大きな打撃だと指摘。「今も支援住宅に残る国内避難民は、立ち退き訴訟に直面している。政府は、特に脆弱な立場にある国内避難民に対して、移住先を問わず住宅支援施策を再開することが推奨される」とした。


母子避難の経済的困難、高い離婚率についても「統計調査によると、家族崩壊のほぼ30%は地震後に起きている。避難の初期段階で家族の分散を余儀なくされたケースも多く見られた」。

さらに「将来が不透明なため、問題が長引いている。特に高齢者で不安レベルが高く、心的外傷後ストレス障害(PTSD)と診断された高齢者も多い。これは支援制度の分散や崩壊が原因」と分析し、離散して避難している家族の脆弱性には特に注意を向けるべきだと指摘した。


また、日本の失業率が3%であるのに対し、国内避難民の労働人口(20〜60歳)の20%が失業していることに触れ、依然として暮らしを再建することは進んでいないと指摘。

避難をした人たちは、新しい環境に馴染もうとする中で日々新しい状況に直面し、将来の不安を抱えながら、また家庭や地域社会による支援の崩壊といった問題を抱え、身体及び心の健康に影響を受けている。国内避難民のPTSD発症率は現在もなお高いままであるという調査結果は驚くものではない、とした。

子どもたちへのケアにも言及している。トラウマを抱えた子どもたち、特に福島をはじめとした被災地から避難していじめに直面している子どもたちの方から助けを求めるのを待つのではなく、根本的な解決を図り、いじめを監視する、より体系的な取り組みを行なうことを推奨する、と指摘。

さらには、子どもは放射能暴露に対し脆弱であることを指摘した上で、放射能暴露のリスクに関して正確に説明した教材を作ることを推奨している。「今回の調査中、放射能リスクを最小限に抑える方法に関する教材を拝見した。教材では放射能被ばくのリスクを、塩分の多いまたは野菜の少ない食生活のリスクと比較しているが、比較的低量のバックグラウンド放射線量と、原子力によるより高い放射線量が明確に区別されていない。また子どもへの放射線の影響についても具体的な記述はなかった」と、報告書でも明確に疑義を呈した。

とても重要な指摘もあった。「国内避難民は、彼らに影響をもたらす、特に生命の保護や生活の再建についての決定に参加する権利を有する」という点だ。

社会的排除や孤立の存在にも言及し、「国内避難民のための恒久的な解決策、特に帰還の計画を立てるにあたっては、彼らの意見を十分に聞かなければならない」と、避難した人々の意思の尊重を強調した。

また、10月30日に投票を迎える福島県知事選にも関連するが、「国内避難民の多くは住民票を移しておらず、不在者投票手続きの簡素化により本制度を強化する必要がある」とも述べている。

全体報告と、日本政府及びその他ステークホルダーへの勧告については、2023年6月の人権理事会で発表する予定になっている。注目したい。


(吉田  千亜)


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