子宮頸がんワクチン勧奨再開―重篤な副反応を看過するのか
HPVワクチン薬害訴訟全国弁護団 共同代表
薬害オンブズパースン事務局
水口 真寿美
成分変わらないのになぜ?
昨年4月、HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)の積極的接種勧奨が再開され、それから9カ月が経ちました。再開前は一時1%にまで落ち込んだ接種率は、再開後約17%(4月から7月、10自治体のサンプリング調査、1回目接種)近くまで増えました。
HPVワクチンは、子宮頸がんの予防を目的に開発されたワクチンで、日本では、2009年にサーバリックス、2010年にガーダシルが承認され、2013年4月に定期接種化されました。しかし、深刻な副反応のために2013年6月から、国が積極的な接種勧奨を中止するという異例の措置がとられて8年以上続いたのです。
その中止が解除され、接種勧奨が再開されたのですから、ワクチンそのものが安全になったのではないかと思われるかもしれませんが、そうではありません。積極勧奨の中止当時と現在、ワクチンの成分は何も変わっていないのです。
問題となっているのは、頭痛、全身の疼痛、知覚過敏、脱力、不随意運動、歩行障害、激しい倦怠感、睡眠障害、重い月経障害、記憶障害、学習障害等、多様な症状が1人に重層的に表れる特徴を持つ副反応です。
治すための確立した治療法はありません。この副反応の発生に関する正確な頻度は国の調査が不十分なためわかっていませんが、その危険性は重篤副反応疑い報告の頻度が他の定期接種ワクチンの平均と比較して8倍以上だということにも示されています。
HPVワクチンには、自己免疫性の神経障害を引き起こしやすい成分があることが多くの研究でわかってきています。その成分が変わっていないのですから、当然といえば当然ですが、再開後の重篤副反応報告の頻度は従前と変わりません。新たな被害者の相談が、被害者団体や弁護団に寄せられています。
「寄り添う支援」の現実
では、そもそも、なぜ再開されたのか。厚労省は「安全性について特段の懸念が認められないことがわかった」「被害者に寄り添う支援もします」等と説明していました。
しかし、審議会では、危険性を示す国内外の研究成果は検討されていません。また、「寄り添う支援」策も極めて不十分です。治療法の研究開発の支援は予定されておらず、予算もついていません。厚労省は全国の協力医療機関数を増やしていますが、大半は被害者の診療実績がありません。
それどころか、今までは被害者に対して差別的言動をしてきた協力医療機関が少なくないのです。また、医師への研修で指導されているのは「認知行動療法」です。これは、深刻な副反応は、ワクチンの成分によるものではなく、ワクチン接種の痛みやストレスが引き起こす機能性身体症状であるという考えに立った治療です。具体的には、副作用のことは忘れ、痛くても歩きなさいといった指導がされています。本来必要なのは免疫学治療ですが、ごく一部の医師の努力によってのみ支えられています。
危険性説明せず恐怖あおる宣伝
積極勧奨の再開後、多くの自治体が対象者に個別通知を送付していますが、危険性の説明は不十分です。厚労省のリーフレットも同様です。それどころか、子宮頸がんへの恐怖を煽る宣伝や、被害者に「反ワクチン」というレッテルを貼る動きまであります。
局所の痛みなど頻度は高くても治る副作用よりも、頻度は低くても後遺症が残るかもしれない重篤なリスクをしっかりと伝えておくことが重要です。このままでは、深刻な副反応被害に直面した時に、「説明されていない」という状況になりかねません。
薬害訴訟と被害者に支援を
現在、全国4つの地方裁判所でHPVワクチン薬害訴訟が争われており、今年5月からは専門家の尋問が始まります。
米国では、各地の連邦地裁に個別に提訴されてきた訴訟について、昨年8月、MDLといわれる集団訴訟に統合する決定がされました。今後、証拠開示手続などが統一して行なわれます。ガーダシルの製造企業は、バイオックスという鎮痛薬による巨大薬害事件を引き起こした企業として有名で、その企業がまた薬害事件を引き起こしているのではないかと指摘されています。
HPVワクチンをめぐる問題の理不尽さは際だっています。少しでも多くの方に問題を知ってもらい、被害者を支援していただきたいと思います。