ケア労働に尊厳と正当な評価を──ホームヘルパー国賠訴訟


 


「ホームヘルパー国家賠償訴訟」をご存じですか?  小学校の社会科で「三権分立」を習った私が、生まれて初めて臨んだ裁判が国相手。ホームヘルパーの仲間2人と共に、1人330万円の損害賠償を求め、提訴したのです。長く続けたヘルパーの仕事で、どうしても解決したいこと、「移動・待機・キャンセルの不払い」がきっかけでした。

2000年介護保険のスタート時に、在宅3本柱=ホームヘルパー・デイサービス・ショートステイと呼ばれ、そのヘルパー(訪問介護員。以下ヘルパーと同)の仕事には、家から家へ移動・待機するという労働が含まれることが特徴です。

ヘルパーの労働実態について公的な調査はありません。移動・待機・キャンセルは、介護報酬に含まれていると厚労省は言い続け、「労働基準法を守るのは事業者の責任」という通達を過去に3度出しています。

私たちは、裁判の証拠として683人のヘルパーに調査をしましたが、「移動は賃金として支払われていない」が3割、待機に至っては8割が不払いでした。「支払われている」という回答の実際も、手当で1件50円〜100円が平均。全国の最低賃金961円(2022年)にあてはめても3〜6分位にしかならず、とても賃金とは言えません。「どこでもドア」でもない限り、その時間内での移動は不可能です。

また、今年度の介護保険予算14兆円のうち、ホームヘルプ予算は9000億円ですが、この金額を政府公表の50万人というヘルパー数で頭割りすると、年平均150万円。公定価格といわれる費用のどこに、移動・待機・キャンセルを支払う余裕があるのか疑問です。


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介護報酬は出来高払いで、訪問した先の時間に合わせて支払われる仕組みです。ヘルパーの訪問時間は介護保険スタート時、1回の訪問に90分あった滞在時間が、効率という名目で制度改正の度に60分、45分、20分と短時間化されました。以前と比べ、移動や待機、キャンセルが増え、実質賃金は減っているのです。

こうした実態から、裁判では「介護報酬を決めている国に責任があり、介護報酬に入っていると言うなら、調査や基準を示して欲しい」と訴え、闘いました。しかし、2022年11月1日、東京地裁は私たちの請求を却下。不当判決に対し、即時控訴しています。

裁判を起こした2020年は介護保険20年目という節目の年でしたが、世界規模で広がった新型コロナ感染症のため宣伝も集会もままなりませんでした。2022年に入り、2024年に予定される介護保険改悪について判明すると、その内容とともに、女性団体を始め、マスコミも次々とヘルパー裁判について取り上げてくれるようになりました。

しかし、ヘルパーの有効求人倍率は15倍と崩壊間際です。国の施策を方向づける社会保障審議会では、施設対策はあっても、在宅介護への対策はないという状況。国が引き起こした不作為の責任は重大です。その裏にあるのは、有料施設への誘導ではないかと考えているのは私だけではないでしょう。

国は「在宅重視」と強気ですが、実態調査のデータを見ると、「ケア付き住宅」等の有料施設を「在宅領域」にカウントしているのです。ここでは、派遣労働者を中心とした施設ケアが行なわれています。高額になった介護保険財源が、人材派遣会社に流れていることは見逃せない点です。


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この裁判を通じて、ヘルパーの仕事は「社会の下支え」だと思っていた自分が大きく変わりました。それはロシアによるウクライナ侵略が始まって以来、一層、平和で豊かな暮らしの継続を考えるようになったことも関係しています。

ケアは「社会の柱」。私は、日本にこそ社会的労働を重視した国作りが必要だと考えています。世界1位の超少子高齢社会を変えていくために、「生産性のある仕事」として、介護・保育・医療・教育などのケア労働を中心に置くのです。軍拡ではなく、住まいの心配がないように公共住宅を増やし、暮らしを豊かにする労働に税金を使うことで、国際社会からの信頼も高まり、真の平和外交ができるのではないでしょうか。


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次回の裁判は3月22日13時から。引き続き、この裁判を通じて、人間らしく働き、人間らしく暮らし続ける実践と発信を強める取り組みにしていきたいと考えています。


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