オランダ/産後の訪問ケア「クラームゾルフ」  一人ぼっちにしない子育て支援



♥健康な次世代を育てる

オランダで産後の訪問看護をしている小出久美と申します。オランダでは、産後の訪問看護は「クラームゾルフ」と呼ばれています。クラーム(Kraam)は産後、ゾルフ(Zorg)はケアを意味します。20年以上この仕事をしているのですが、母子の健康を守り、健康な次世代を育てるという視点から、クラームゾルフの果たす役割、社会的な意味は大きいと自負しています。

日本でも、ここ数年の間に、産後ヘルパー/産後ドゥーラという言葉をよく耳にするようになりました。心身を消耗して追い詰められた状況に置かれる母親が増え、深刻な社会問題となっている日本で、母子の心身を守るための福音となればよいなぁ、と期待している者の1人です。

♥クラームゾルフの役割

オランダでは、出産の4分の1が自宅で行なわれるため、出産直後から母子の看護者が必要となります。それがクラームゾルフです。出産の際には、助産師のアシスタントも務めます。病院やバースセンター(医師がいない、正常な出産に特化された施設)で出産した場合にも、産後2時間ほどで退院できますので、クラームゾルフはそれに合わせて出産当日からケアを引き継ぐことになります。

クラームゾルフの役割は、3つあります。第一に、母子のケア。出産後の母子の健康の管理は、産後10日間は地域の助産師が担っています。その間、助産師は3回ほど家庭訪問します。クラームゾルフは、毎日母子の健康チェックと必要なケアを行ない、気になることがある場合には、すぐに助産師に電話で連絡を取って、話し合ったり、診察を依頼します。

次に大事な仕事は、赤ちゃんとの付き合い方、お世話の仕方を共に実習し、母乳育児を助けることです。特に初めての出産の場合には、とても大きな意味を持ってきます。自宅の環境に応じて、家庭にあるもので、その家族にふさわしい方法を見つけて練習します。これは、親となるママ・パパの自覚を促し、積極性を育て、自信を育みます。

出産当日は、喜びに満ちながらも時々不安な表情を見せていたのに、1週間後には自信と満足感にあふれた立派な親の顔になっているのを見られることは、私の喜びであり、この仕事に対するかけがえのない報酬です。

また、母乳育児は文化ですので、産後おっぱいが出るようになるからといっても、放っておいては成功しません。先進国では1950年代頃から粉ミルクの文化が広がり、母乳育児の方法が母から娘に伝わる機会が失われてしまいました。母親の90%以上が、母乳で子どもを育てられるはずですが、実現していません。母乳育児が子どもの健康、母親の健康に大きく影響することはよく知られていますので、オランダでは政府が先頭となって推進しています。

クラームゾルフの3つ目の仕事は、家事です。産後は、家事の担い手が欠けた状態ですから、料理、洗濯、掃除、買い物、上の子のお世話、など、やはり家庭の状況に応じて何でも行ないます。

♥財源は医療保険

クラームゾルフの財源は医療保険です。産後8〜10日間の間に、49時間を基準として、このケアを利用することができます。

オランダの保険は、ベーシック保険の上に、保険料を上積みして上級保険に加入することで内容を充実させることができます。出産の予定がある人は出産関係の保障が手厚い保険に加入する、腰の悪い人は理学療法を利用できる上級保険に加入する等です。

ベーシック保険でクラームゾルフを利用すると、1時間当たり650円の自己負担が生じますが、上級保険に加入すると、自己負担金はなくなります。その場合の上級保険への加入料は1000円(月)位です。

オランダのクラームゾルフ制度は保険制度に組み込まれ、誰でも平等に利用できるという点で、世界で唯一のシステム。この制度によって出産後の新しい家族生活を快適に始められることの利益は、その家庭にとってだけでなく、社会にも大きく寄与するものです。日本でもこのような制度が始まればいいなぁ、と願っています。


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