違憲だらけの国内法制定 主権者の力で廃止を(弁護士 海渡雄一)

 

▼戦争準備の違憲立法

2012年末に第2次安倍政権が始まって以来、戦争体制を準備するための違憲立法が次々と強行されています。2013年特定秘密保護法、2015年戦争法(安保法制)、2017年共謀罪法、2021年デジタル監視法と重要土地規制法、2022年警察庁サイバー局と経済安保法、2023年には大軍拡二法案(軍事予算確保法案と武器開発生産基盤強化法案)等です。

このような監視社会化を進める一連の法制定は、表現の自由を萎縮させ、民主主義の危機をもたらします。戦争に反対することが難しくなり、国の政治自体が、戦争を前提としたものへと作り替えられようとしているのです。これらの法律は、明らかに憲法の人権保障規定に反し、日本政府が批准している人権条約にも違反するものです。

国会では、心ある野党議員が必死に頑張っています。重要土地規制法までは立憲野党が一致して反対できました。しかし、このような問題法案について、国会で共闘できなくなっています。

昨年成立した経済安保法がそうでした。軍事予算確保法案には野党は反対ですが、それを支える武器開発生産基盤強化法案には、立憲民主党も反対できない。政府の暴走を止められなくなっているのです。


▼訴訟と国際条約


私たちはこのような違憲立法に対して、「悪法も法なり」と従わなくてはならないのでしょうか。

戦争法=安保法制については全国各地で違憲訴訟が提起されています。新たな安保法制の核心は、自衛隊に対する憲法の縛りや集団的自衛権行使の否定を緩め、時の政府の判断で、自衛隊が海外に派兵され武力行使を展開することに道を開くところにあります。

この法律については、憲法学者の圧倒的多数が違憲と判断しているにもかかわらず、裁判所が正面から違憲と判断した判決は出されていません。そもそも、裁判所は憲法判断を避ける傾向にあります。その大きな壁は、具体的な人権を侵害された当事者しか違憲性に判断を求めることができないという「具体的審査制」です。

秘密保護法や共謀罪、重要土地規制法等が適用され、個人がこれらの法律違反を理由に起訴された場合には、その刑事裁判では起訴の根拠となった法律を違憲だと主張することができます。この場合には「統治行為」を理由に判断を回避する可能性はありますが、裁判所は原則として憲法判断を避けることはできません。

他方、問題ある法律について、誰もが裁判を提起することができ、違憲と判断されれば、その有効性を否定できるのが「憲法裁判所」です。ドイツやフランス、スペインなどのヨーロッパ諸国だけでなく、韓国や台湾にも設置されています。憲法裁判所制度をつくるには、憲法改正が必要です。

もうひとつ有効な手段が、国際人権法であり、国際人権機関です。日本が批准している人権条約に基づいて、法律の問題点を国際機関から指摘してもらうことができます。

秘密保護法や共謀罪の制定については、国連の人権高等弁務官、理事会の任命した特別報告者が公開書簡を政府に送り、法律の人権侵害性を広めることに貢献しました。共謀罪法について特別報告者のカナタチ氏が安倍首相に送った手紙の内容は、昨年11月の国連自由権規約委員会の総括所見でも繰り返されています。

今国会に提案されている入管法改正案についても、国連人権理事会が任命した複数の専門家が「国際人権基準を満たしていない」として、日本政府に公開の共同書簡を送りました。


▼悪法を使わせないために


違憲の法律が次々に制定される国会の状況は危機的です。しかし、あきらめてしまってはおしまいです。制定された法律も反対の声が強ければ、容易にこれを使うことはできません。破防法による団体解散も、オウム真理教に適用されようとしましたが、公安審査会に棄却されています。昨年、秘密保護法の検挙事件が明らかになりましたが、結局起訴に至りませんでした。共謀罪法も起訴された事件はありません。

市民が集会を開き、地方自治体で決議をあげ、問題点を指摘する声が高まれば、必ず効果があるのです。盗聴法=通信傍受法、秘密保護法については野党が廃止法案を出し続けた経過がありました。そして、最後には悪法は国会の手で、民主主義の力で廃止できることを確認しておきたいと思います。



(5月25日号)

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