国内初「経口中絶薬」承認も 現実にそぐわぬ認可条件(フリーランスライター 岩崎 眞美子)




岩崎 眞美子(いわさき・まみこ)

フリーランスライター/編集者

SOSHIRENメンバー

「#もっと安全な中絶をアクション」メンバー


厚生労働省が4月28日、国内初となる経口妊娠中絶薬「メフィーゴパック」について製造販売を承認した。2月に実施されたパブリックコメントには、1万2000件もの意見が寄せられ、多くのメディアが報道。SNSを中心に議論が広がったことも大きな後押しになったのではないだろうか。

残された数々の課題

承認は喜ばしいことだが、課題はまだまだ多くある。処方可能な週数の問題、費用の問題、そして取り扱える病院の問題だ。

厚労省は、経口中絶薬使用にあたっての「留意事項」として、母体保護法指定医師の確認の下で投与を行なうこと、「本剤の適切な使用体制のあり方が確立されるまでの当分の間」、入院可能な有床施設(病院又は有床診療所)で使用することを義務づけている。入院も鑑みての処方のため、費用は外科的手術と同様の10万円ほどになるのでは、という声もある。

経口中絶薬はWHOが妊娠12週までの中絶に「より安全で効果的」と推奨している中絶法だ。頭痛薬やインフルエンザワクチン等と同様に、妥当な価格で広く使用されるべき薬として「必須医薬品」に指定されている。

費用は、中絶をヘルスケアとして保険適用している地域なら、手術、服薬に限らず無料。カナダやオーストラリア等、費用がかかる地域でも日本円で4万円程度だ。初の認可で慎重を期しているとはいえ、国際基準からも当事者の切実さからもかけ離れた内容になっている。

9週までに可能なのか?

今回、厚労省が定めた対象者は妊娠9週までだが、そもそも妊娠9週とはどういう状態か。妊娠週数は、妊娠が疑われるセックスがあった場合、その直前の生理のあった週を0週目として計算する。次の生理が遅れていることに気づき、妊娠検査薬で調べて反応が出る時点で、既に4週目に入っている。

よっぽど生理周期が正確で、妊娠の疑いが確実な人なら4週目で検査もするだろうが、ほとんどの人は「少しいつもより遅いなあ」と考えるし、生理不順のある人ならなおさらのこと、妊娠に気づくのはさらに遅れるだろう。

女性がごはんの炊ける匂いに「うっ」と吐き気をもよおし「も、もしかしたら…」と婦人科を受診すると「妊娠3カ月ですね」と告げられる。そんな定番のシーンが昔のドラマにはよくあったが、実際、多くの場合妊娠が確定するのは2〜3カ月目なのではないか。

すぐ気づいたとしても4週目。生理が2週間も遅れている、さすがにこれは…と思って検査して6週目。婦人科を受診して妊娠が確定し、産む産まないをどうするか、パートナーにはどう話す…?迷っているうちにあっという間に1〜2週間が経つ。中絶するにしても手術は怖い。できるなら経口中絶薬にしたい。やっとそこまで決断しても、残りはもうあと1週間。手術日を予約して、仕事も休まなくてはいけない。

それでも、大都会ならばぎりぎり駆け込んで指定医に中絶薬を処方してもらうこともできるだろう。でも、地方在住で「入院施設を持つ母体保護法指定医のいる病院」が、身近にない人はどうすればいい? 費用をすぐに工面できない人は? 情報にたどり着きにくい外国人は? 今回の認可条件が、いかに現実にそぐわないものであるかがよくわかるはずだ。

中絶は「ヘルスケア」

厚労省の言う「本剤の適切な使用体制のあり方が確立されるまでの当分の間」の「当分」とはいつまでなのか。誰が、どのようにそれを評価するのか。

そもそも中絶は、その人の命に関わる重要なヘルスケアだ。本来なら自由診療でなく保険診療、もしくは公費補助対象にされるべきだし、自由診療であるとしても「必須医薬品」として妥当な価格設定がされるべきだ。

母体保護法では、医療行為としての中絶を行なえるのは、母体保護法指定医師のみとなっている。だが、イギリスでは、コロナ禍をきっかけに、オンライン診療を受け、中絶薬を郵送や最寄りの薬局で受け取って自宅で服用できるようになった。もちろんその際にも、出血や腹痛等、薬の服用で体にどのような症状が起こるかの説明や、カウンセリングなどのサポートもある。最終的には、本人が自分のベストなタイミングで、中絶を選択できるようになった。

日本においても、母体保護法指定医師以外の医療機関でも、中絶薬を取り扱えるよう範囲を拡げていくべきだ。オンライン診療も含めて、本人が安心して自分で使えるよう、カウンセリングや24時間サポートなどの環境を整えていくことも必須だ。承認は、はじめの一歩。これからが本番ですよ! 



(5月25日号)

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