核のゴミをめぐる10万年先への私たちの責任

美しい風景が広がる寿都町
奥に風力発電が12機もある


北海道町、村は、核ゴミの地層処分を巡り揺れている。2020年10月、寿都町長が独断で「文献調査」に応募した同日、神恵内村には経産大臣から申し入れがあり、村長が受け入れたのが事の発端だ。

「文献調査」とは、地誌や学術論文等で過去の地震・噴火等を調べ、地層処分に耐えうる地層かどうかを調査するもの。受け入れると交付金20億円がその自治体に入る。寿都町は町長独断、神恵内村は商工会が誘致を請願、村議会決議で話が進み、住民の意見は聞かれなかった。

「文献調査」を終えると、報告書がまとめられ、「概要調査」へと進む。概要調査では交付金70億円が自治体に入る。その後、県知事の承認を経て、核ゴミの地層処分が決定するという流れだ。

現在、寿都町と神恵内村は、「概要調査」の手前の段階。反対する住民らは、町が賛成と反対に分断される中で、核ゴミを持ち込ませないため、次世代のために声を上げている。

●「自由に話せる空気がない」

本来、核ゴミの問題は、日本全体の問題であり、誰一人部外者ではない。

5月27日から北海道札幌市で行なわれた「どうする? 原発のごみ全国交流集会」(主催/原水爆禁止日本国民会議・北海道平和運動フォーラム・原子力資料情報室)では、10万年先の未来への当事者性を考えさせられた。

第一分散会では、寿都町と神恵内村の現状を寿都町民と神恵内村議が訴えた。NUMO(原子力発電環境整備機構)は住民自治に入り込み、核ゴミの賛否を差し置いて「未来のまちづくり」や、次世代(高校生)の議論に手を伸ばしているという。

神恵内村の土門昌幸さんは、唯一の反対派の村議。村議会では現状を知るための専門家要請もせず、国とNUMOによる説明会を一方的に受け入れた。反対派が意見を述べられる機会も雰囲気もなかったという。NUMO主催の村民との「対話の場」でも、表層的な説明が続き、村民同士が核ゴミについて自由に話せる空気がないと語った。

大串伸吾さん

「子どもたちに核のゴミのない寿都を! 町民の会」の大串伸吾さんは、寿都の水産物の魅力を語りながら、豊かな地域コミュニティが分断された状況を説明した。町長は「肌感覚」という言葉で過半数以上が文献調査に賛成だと豪語したが、2021年町長選挙の出口調査では文献調査賛成から最終処分受け入れまでの賛成を合わせても33%だった。

また、NUMOによる核ゴミに対する啓蒙活動が、教育現場に介入していることにも懸念を示した。その一つ、ハッピーロードネット(福島県のNPO)は寿都の高校生10人、福島の浜通り10人とで互いの地域や六ヶ所村を訪問する等、交流を重ねている。高校生らは「核ゴミを特別視しない」「核ゴミも私たちが解決しなくてはならない」と発表し、ガラス固化体の猛毒性を軽視したかのような「ガラス固化タン」というゆるキャラまで提案。高校生にどんな情報提供をしたのかをハッピーロードネットに問いただしたが、無視されていると語った。

● 未来世代法という考え方
明日香壽川さん

明日香さん(東北大学)からは「未来世代法」について紹介された。未来世代法とは、30年後にいる自分が、この事業をどう評価するかという視点で政策を評価するという法律。(※1面続き)

日本にはまだない法律だが、この概念を寿都の高校生に伝え、未来世代の視点で核ゴミについて考えることが、分断解消につながるのではないかと語った。

藤原遥さん(福島大学)は、原発立地地域の財政について発表した。莫大な交付金が町の規模と合わず財政が肥大化し、依存体質に陥ると指摘。そもそも原発マネーは保守点検、建設業という特定業界にしか影響がなく、町全体の発展に貢献しないとらかにした。

また、藤原さん自身が福島県田村市で関わっている「阿武隈150年の山構想」も紹介。150年後とは、放射性セシウムがほとんどなくなる時期だ。原発や汚染への考え方は違っても、150年先に残したいまちづくりを共有することで、賛成・反対の人が一緒に活動できると話した。未来世代法にもつながり、寿都町・神恵内村にも応用できるという提案もあった。

● 世代間倫理の問題

2日目のパネルディスカッションでは、北海道生まれの青木美希さん(ジャーナリスト)も登壇し、「真実を追求するために集まっていて力強い。分断を乗り越えるために真実を知ることが大切」と語った。

岡村りらさん(専修大学)は、ドイツの事例を挙げながら、「地層処分の対象であるガラス固化体の総量がわからないという不確定要素に基づく地層処分地の選定。総量が決まってないのに何が決められるのかという大きな問題だ」と指摘。

寺本剛さん(中央大学)は「将来世代のためという言葉が政策根拠にされるが、本当に将来世代のためか、別のリスクに転換しているだけではないか、世代間倫理の問題として捉えることが大事」と訴えた。

長谷川公一さん(東北大学)は、2012年の学術会議の提言(地層処分に対して暫定保管・総量管理などを提唱)に関わった一人。「社会的合意がないまま、権力と札束が合理性を埋めている」と批判した。

活発な議論の中、寺本さんは、世代間の2つの公平性に触れた。それは「ゴミは出した世代が始末すべき」という負担の公平性と「リスクのある核ゴミについて決められる」という決定権の公平性の2つだ。「核ゴミの問題はこの2つの公平性の両方は守れない。地下に埋めたら決定権がなく、地上なら監視が必要となり負担を抱える。世代間倫理から見ると、核ゴミが出た時点で将来世代に完全に責任を取ることはできない。よりマシなのは何かを考えなくてはならない」とその厳しさに言及。「学術会議の暫定保管というコンセプトは素晴らしい。将来が見えない中での決定は無責任。暫定保管の仕組みがあると良い」と語った。

● 地層は今も変動している

3日目は、寿都町の現地へのバスツアーがあり、町民の会のメンバーとの交流、地層処分には強度に問題のある「泥岩」を見ながらの岡本聡さん(元北海道教育大学・地質学者)によるレクチャー等があった。

岡本さんは「寿都町や神恵内村で憂慮される岩石の割れ目や地下水の流出について考慮されておらず、重大な問題点を含んでいる」と指摘。寿都町東側にある泥岩地帯の丘で、地質断面図を解説しながら石を砕いて脆さを示し「日本(の地層)は変動の真っ只中だ」「10万年、世界のどの地質学者も安全であることを証明できない」と力を込めた。

● 反対でも署名はできない

子どもたちに核のゴミのない寿都を! 町民の会の共同代表、三木信香さんはバスツアー参加者との交流会場で、「チラシは全戸配布していますが、いらないと言われたり、ゴミ箱に入れられたこともあります」と町民同士の分断を明かした。

寿都町の世帯数は1500以上あるが、町民の会のメンバーは43人。この日参加者に渡された広報誌の最新号は48号。並々ならぬ努力を重ねているが、三木さんはこうも話す。

「美容師をやっていますが、こういう話(地層処分について)をお店ではしないようにしていて。でも、全然話さなかった人が『チラシ見たよ、応援してるから』って言ってくれたり…この3年くらい、何人かに言われて、無駄じゃないな、続けていこう、と思っています」。

手探りで始めた反対活動も3年目。三木さんは、全道、全国に発信を始めた。若者向けにSNSを始め、オンラインの講演等にも参加するようにしている。

「動ける人が限られ、マンパワーが足りなくて…。私も札幌(核ゴミ交流会)に行きたかったのですが、娘が『体育大会に来て』と。ふだん家族を犠牲にしているので諦めましたが、今日は参加しました。寿都のことを一人でも多くの人に伝えていただけたら、活動をしている甲斐があります」と涙を浮かべた。

仕事の休憩時間に、同じく共同代表の南波久さんが、長靴姿で現れた。「寿都町は人口が少なく親戚は多い、人の繋がりが特徴的です。最初に訪問して反対署名をくださいと伺ったときに、反対なんだけど署名はできない、と言われたこともあります。目に見えない形で分断が進んでいるんです」と語った。

国策による地域分断とリスク押し付けが進行している。その苦しみと10万年先への責任を、この地域だけの問題にしてはならない。

(吉田 千亜)


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